研究課題/領域番号 |
15K02017
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研究機関 | 清泉女子大学 |
研究代表者 |
原田 雅樹 清泉女子大学, 付置研究所, 教授 (90453357)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 概念の哲学 / ニュートンとライプニッツ / 無限小 / 力学系 / 作用素環論 / 非可換幾何学 |
研究実績の概要 |
超準解析を生み出したRobinsonの動機は、Leibnizが依拠した無限小の概念を正確な数学的対象とすることである。Leibnizは、無限大ないし無限小を記号的認識によるものと理解したうえで、それらを表現する対象が有限の世界のシステムに組み込まれていると考えている。また、連続律が結びつくのは位置の原理ではなく、推移の原理であり、そこでは有限が無限を表現する。そして、無限大ないし無限小特有の加法、減法、乗法、除法が新しい仕方で導入されうる。 作用素環論を出発点として非可換幾何学を構築した数学者Alain Connesは、作用素環論においてコンパクト作用素が超準解析における無限小のように見なせることに着目する。すなわち、ある作用素にコンパクト作用素を加えても本質的には同じとみなせる。ここでヒルベルト空間上の作用素として表現されたコンパクト作用素とは、有限次元を除いた作用素のサイズが任意の正の数よりも小さくなるような作用素のことである。このコンパクト作用素の概念を用いて、フレドホルム加群を導入することで、非可換化された微分幾何学というものを考えることができるようになる。古典的な微分幾何学において、多様体の局所的性格と大域的性格との間に対応を与えるAtiyah-Singerの指数定理というものがあるが、サイクリックコホモロジーやK理論を用いて非可換化されたAtiyah-Singerの指数定理というものを構成することができる。 さらに、コンパクト作用素の概念を用いて、Dirac作用素を導入することで、計量を入れた非可換空間を構成する。すなわち、Dirac 作用素を無限小距離として考えるのである。このような計量の入った空間概念を用いてConnes は、素粒子の標準模型の再構成・再解釈を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主に作用素環論、非可換幾何学におけるコンパクト作用素の役割について、Alain Connesが書いたことを中心に、彼が無限小概念からいかにしてその発想を得たかを研究する。また、彼が、どのような考え方で、ディラック作用素の逆を計量として捉えるに至り、それを素粒子の標準模型の再構成・再解釈のために用いたかを学びつつ、いくつかの場において発表をした。
科学基礎論夏のセミナー(2017年9月29日、北海道大学)において、「コンヌの非可換微分幾何学と素粒子の標準模型」という講演を行う。
また、2017年11月20日の日本ライプニッツ協会に招かれて来日したデ・リーシ博士のWorkshopで、From Infinitesimal in Classical Geometry to Compact Operator in Noncommutative Geometry というタイトルの講演を行う。
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今後の研究の推進方策 |
群のamenabilityやinvariant meanという概念を学びつつ、それが非可換なエルゴード理論・力学系の中でどのような役割を演じているかをまず学ぶ。ここでも、コンパクト作用素が大切な役割を演ずるが、ニュートン的「運動」から導出された微分・積分とどう概念的に繋がるかを認識論的に考えていく。作用素環論論はその起源から量子力学の基礎付けという問題と深く結びついていた。超準解析から作用素環論に目を移した時、Leibniz的微積分からNewton的微積分へと移行する必要があるという作業仮説をたてて研究を進めていく。von Neumann環の非可換積分論には、力学系が組み込まれているのである。 また、Jones はガロワ理論における体の拡大次元と類比的に、因子環factorの部分因子環subfactorに対する相対的次元を「指標」として導入し、von Neumann環の構造をより細かく分析していく。 最終年度に当たり、以上のような数学概念の展開について、概念の哲学の方法論をヒントを得ながら哲学的分析を施していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年3月に予定していた研究者との会合のためのフランス・パリ行きが都合により実行できなかったため、助成金の使用に余りが出てしまった。2018年9月にパリに行って、研究者との会合を持ちたい。
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