作用素環論を構築し始める直前の1930年頃、von Neumannは、Banach-Tarskiのパラドックスのような測度についての基礎的問題に対する関心から、amenableな群というクラスを導入した。amenableな群とは、可測空間の任意の領域に作用させても不変な測度が存在する群のことである。群がamenable であるということは、Banach-Tarskiのパラドックスのようなことが起こらないということと等値である。ところで、エルゴード性とは、各点の動きが空間全体を一様に覆い尽くすように作用する一つの(時間)パラメータ群の性質のことであるが、これは、可測空間の任意の二つの部分が一様に混合するように作用するamenableな群の性質でもある。 空間を点の集合として直接捉えるのではなく、その上の代数を考えることで捉えるという現代数学の立場によると、可換von Neumann環は可測空間としてとらえられる。それを拡張して、非可換von Neumann環を考えることで、非可換可測空間を措定するということが作用素環論においてなされた。 von Neumann環は、その中の射影作用素の特徴づけによってI型、II型、III型と三つに分けられる。さらに、そこに群構造を入れ、非可換可測空間上の非可換エルゴード理論を考えることによって、1970年代、A.ConnesによってIII型の構造が明らかにされた。そこでは、力学系的な自己同型群の周期の特徴づけ(エルゴード的のような周期的でない場合も含めて)が用いられている。このIII型の分類は、作用素環論における自己同型群の重要性を明らかにした。この自己同型群の性質を駆使し、超準解析に由来する超積の考え方も取り入れながら、II型、III型の中で有限次元作用素によって近似できるというよい性質を持つ作用素環(AF環)の分析がなされた。
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