平成29年度においては、論文「夜と音楽」(「ミシェル・アンリ研究」第七号)において、ウラジミール・ジャンケレヴィッチの音楽論、とりわけ『音楽と筆舌に尽くせないもの』における「夜」の概念とミシェル・アンリのカンディンスキー論『見えないものを見る』における「夜」の概念の比較検討を行った。これを通じて、音楽のあり方と、申請者がこれまで考察してきた「中間領域」のあり方との間にある密接な関係の一端を明らかにできた。また、この考察を通じて、「言語」、特に哲学の言語の存立可能性と、芸術作品の存立可能性とが等根源的であること、これを側面的にであれ、光を当てることができた。これは、メルロ=ポンティの「肉」の思想と深く関連したテーマであり、この問題性を明らかにすることができたことで、メルロ=ポンティにおいて(実際には殆ど語られていない)「音楽」の問題の所在と、これが晩年のメルロ=ポンティ存在論における哲学の可能性の問いそのものと連繋しており、これまであまり試みられなかったメルロ=ポンティ存在論への接近方法のヒントとなるものと考えられる。 また、本年度は、『メルロ=ポンティ哲学者事典』(白水社、第一巻~第三巻、および別巻)の翻訳・編集、および別巻「メルロ=ポンティ」の項目の執筆に当たった。この別巻は、メルロ=ポンティについては概論であるが、本研究の成果が多分に反映されている。 さらに、『メルロ=ポンティ読本』(法政大学出版局)の編集および執筆にも当たった。こちらでは、『眼と精神』の項目の執筆を担当した。これも概論ではあるが、本研究のテーマと密接な関連を持つ著作であり、本研究の成果を大いに活用することができた。
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