フランスの現象学者・メルロ=ポンティには三篇の芸術論がある。このいずれも基本的には絵画を対象としたものである。特に晩年の芸術論でメルロ=ポンティは、セザンヌだけではなくクレーからも大きな影響を受けている。クレーの絵画においては、音楽は重要な意味を持っていた。しかし、メルロ=ポンティの芸術論においては、音楽は扱われていない。 そこで、同じくフランスの哲学者でメルロ=ポンティと同時代人であるジャンケレヴィッチの音楽論と、同じくフランスの現象学者で音楽に極めて近接しつつ音楽について語らないミシェル・アンリ『見えないものを見る』とを接近させて考察し、メルロ=ポンティの不在の音楽論への接近を試みた。
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