研究課題/領域番号 |
15K02024
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研究機関 | 岡山商科大学 |
研究代表者 |
九鬼 一人 岡山商科大学, 法学部, 教授 (30299169)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 価値合理性 / リッカート / 二重作用説 / 決断主義 / 新カント学派 / 価値哲学 / ディルタイ / 価値体系 |
研究実績の概要 |
ガブリエル,G.論文「新カント学派哲学者フレーゲ」(1986)でつとに説かれるように、フレーゲは価値哲学者として、問いとの呼応において、「思想」を価値態度決定の与件と考えた。つまり彼の真理論では、「真理を問いうる」与件に対する、(リッカートの「問いなき然り」と同様)態度決定的承認が重要な役割を演じていると言えよう。このフレーゲ論を下絵として、平成27年度には、ディルタイ全集24巻のリッカート批判を検討するかたちで、 リッカートの「二重作用説解釈」の冒険を試みることに力を注いだ。その解釈素案を日本ディルタイ協会関西研究大会で口頭発表し、『ディルタイ研究』第26号34~55頁に「リッカート解釈の冒険―ディルタイのリッカート批判(全集二四巻)を手掛かりとして」論文のかたちでまとめた。具体的には、ディルタイとの対質を通じて、リッカート認識論をノエマ的質料とノエシス的態度とからなる理説として捉えた。一方で『認識の対象』系列の著作におけるノエマ構成と、科学分類論系列の著作におけるそれとをつぶさに検討し(その一部はブログで公開)、前科学的個体を、表象結合に相当する質料として解しうることを示した。そしてノエシスに当たるリッカートの態度(=Verhalten)を、〔ハーバーマスの理解する〕ポパーの決断主義になぞらえて解釈するという、いささか大胆な冒険に踏み込んだ。とくに「思想」の所与的性格に引き付けつつ、(ガブリエル/シュロッターの論究を承けて)真理の余剰説に橋渡しして、リッカート哲学の実在論的性格を明らかにする見通しである。なお当初予定していた、厚生経済学からの、ヴェーバーの価値合理性へのアプローチでは、倫理学固有の問題を置き去りすることに気づいたので、規範の行為主体相関性の文脈に即して、既発表の非帰結主義論文の延長線上に(リッカートの価値体系を視野に入れて)展開しなおす予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度では、非帰結主義からヴェーバーの価値合理性へのアプローチを、論文として公にする予定であったが、試論を日本倫理学会に投稿したところ、「科学哲学」での既発表論文との連携がうまくいかず、rejectされてしまった。また平成29年度に予定していた真理の余剰説に関わる論点をいち早く考究したのと引き換えに、新カント学派プロパーの研究(もとよりブログで進捗中であるが、)、とくにHeidelberger Bilderbuch, Erinnerungen von Hermann Glockner (1969)の討究が遅延している。とはいえセンを受け継いだ既発表の議論は、倫理学的文脈でも有効であると考えるし、その議論を継承しつつ、研究協力者、加藤康史氏から、価値実在論を展開する力添えを得ることができた。すなわち価値実在論と「規範の行為主体相関性の議論」とを、架橋するという望外の考案を獲得しえた。その成果は近く、『岡山商大論叢』に「加藤泰史論文の批判的継承―カント的対比から多元的価値分類へ」論文として発表する予定である。そこで、倫理的規範の卓越性を自己評価中立性・行為者相関性の概念対のもとで照射する心算である。
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今後の研究の推進方策 |
厚生経済学の機会集合の豊富さの議論がそのままでは、倫理学的には説得性を欠くことに気づいた。機会集合の豊富さを、現実世界から到達可能な倫理学的に理想的な可能世界の豊富さとして捉え直すべく、現在模索中である。価値合理性論としては、規範の行為主体相関性の議論をいかすかたちで、とくに効用を期待できない者=貧者にとって妥当する倫理に議論を絞るよう、ヴェーバーに関する研究計画を変更する。その成果として、倫理学的には最適解ではないものの、最小限の倫理を求める者(貧者)の、「苦悩する知」を彫琢し、それを価値合理性の議論の一部として呈示したい。 平成28年度は、研究協力者廳茂氏と交流し、新カント学派の背景にあった規範に関する研究を、(倫理的-現実的にかかわるジンメルの研究を継承し)なおいっそう深めたい。また可能であれば加藤康史氏・廳茂氏とのディスカッションを岡山において開催したい。そのレスポンス・研究成果はHP、ブログにて公開してゆく予定である。 なお当初、リッカートの超越的当為を観察者中立性に定位して考えていたが、セン論文の義務論解釈を再検討した結果、自己評価中立性に定位すべきであると構想が変わった。これは、ひとえに研究協力者加藤康史氏のカント研究(内在主義/外在主義の区別、とくに非関係主義/関係主義、目的/手段の区別)に負っており、研究の方向性として、カントの義務論と新カント学派の当為との繋がりも、いっそう明確になってきた。
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備考 |
(1)CiNiiに研究機関がアップロードする予定。(2)Grenzenのテキストクリティーク等、科研費の成果を漸次更新。
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