研究課題/領域番号 |
15K02024
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研究機関 | 岡山商科大学 |
研究代表者 |
九鬼 一人 岡山商科大学, 法学部, 教授 (30299169)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 新カント学派 / 価値哲学 / 認識論 / リッカート / 自己決定 / セン / フィヒテ主義 / 態度決定説 |
研究実績の概要 |
新カント学派の認識論について、コーヘン・ヴィンデルバント・リッカートを主軸にしてこれまで考究を続けてきた。本研究の全体の見取り図(従来の研究に超越的当為に掉さした態度決定説・価値の体系の吟味を加味したもの)をまとめて、HP(http:// www.osu.ac.jp/~kazuto/scientificresearch.html)にてhttp://www.osu.ac.jp/~kazuto/ neukantianismus_version4.pdf(「新カント学派の遺産・転移するロゴス」)を発表した(researchmapからもダウンロード可)。 本研究を進めるあたり、研究協力者(廳茂先生ら)のご意見を(2016/12/24岡山国際交流センターにて)頂戴したことは有意義であった。その議論のたたき台としたファイルもHPにて公開してある。そこで取り組んだ問題はおおよそ、二つに分かれる。 一つはカント・リッカート・ジンメルの価値論を存在論的実体主義/関数主義、および価値論的超越論/心理学という二軸を組み合わせることにより、リッカートの価値論が、存外ジンメルのそれと類似しており、両者を自己決定(決断主義)のもとで括ることが可能なことを明らかにした点である(『岡山商大論叢』に掲載予定)。 もう一つは、リッカート認識論のフィヒテ的要素・宗教的背景に踏み込むことにより、それが理論理性的には「無底/深淵」に晒されていることを示唆した。すなわち彼の場合、ある判断をくだしたとき、それに背馳する広範な判断を切り捨てて、認識が成り立っている(2017/3/11にカント研究会にて発表)。裏返せば、広範な判断という〔当該判断を含む〕豊富な機会集合を前提としているのである。これを承けて、認識における截り取りが彼の判断行為と、表裏一体の関係にあることを押さえ、規範の観点からその実践的含意を明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
マックス・ヴェーバーの価値合理性概念を、アマルティア・センの規範概念とむすびつけて論じた拙論を、日本倫理学会誌に投稿したが、一回目は厚生経済学との連関が不分明であったため、二回目は普遍化可能性の問題で躓いたため、採用されるには至らなかった。これが遅延の主たる要素である。最終年度ではハードルを下げ、とくに安彦一恵の「自己善」と「価値合理的心情倫理」の重なるところ、はみだすところに焦点を絞り、ヴェーバーの価値合理性概念に架橋し、日本倫理学会で口頭発表する予定である。 新カント学派通史・フィヒテとリッカートの関係等の研究は、おおむね堅実に進捗しているが、厚生経済学におけるGravelの単調性のアイデアを倫理学的非帰結主義に生かす試みには難渋している。とはいうものの、リッカート認識論を、センの規範分析(行為主体中立性・行為主体相関性の議論)と接続させて、捉え返す方向性は、順調に推移している。研究経過は、科研費で購入したAdobeソフトを最大限活用し、HP(http://www.osu. ac.jp/~kazuto/scientificresearch.html)にて順次公開している。すでに全体の成案を述べた「新カント学派の遺産・転位するロゴス」をアップロードしてある。また「価値のタイポロジー―超越的当為の定位」は脱稿し、印刷待ちの段階である(『岡山商大論叢』第53巻第1号1-25ページ)。 なお昨年度は研究共協力者と研究会をもち、自己決定と自律のちがいについて考察を深めた。その成果は2017/3/11のカント研究会で「リッカートの義務論的認識論―誠実性と自己決定の狭間から見えてくるもの」http://www.osu.ac.jp/~kazuto/transcendentes _sollen_version8.pdfという題で口頭発表発表し、HP,researchmapにて公開している。
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今後の研究の推進方策 |
ヴェーバーの価値合理性概念についての内在的研究が遅れているので、安彦一恵による「自己善」vs「世界の善」の対照という、倫理学的展開を踏まえ、前者を非厚生主義的な自己にとっての〈広義の帰結主義的〉倫理として、後者を他者にとっての厚生主義的倫理として、彫琢したい。その文脈で「自己善」における「非厚生主義的-帰結」の意味を問い直すことによって、価値合理性研究に新たな視角をもち込みたい。これが新カント学派の価値合理性概念を反省するさいのかなめとなる。 さらにリッカートの規範概念に関連して、リッカート認識論を真理の一致説と比較し、模写説を斥けつつも、フレーゲ的一致説との類似性に話を運びたい。そのさい、フレーゲの命題内容の承認(主張力にかかわる論点)に、西南ドイツ学派の態度決定説との接点を見る。さらにフレーゲにおいて顕著なように、実践的作用が命題内容に寄り添うこと(引用符除去ができること)を、議論の前面に押し出す。かかる余剰説との対質において、リッカートの真理論を現代哲学の文脈で賦活したい(Gabriel,Krijnen,Kublicaの所論を援用する予定である)。 命題内容に係る論点は、ディルタイとの対質によって明らかにした(文献学的に「前科学的個体概念」として析出した)ノエマ的契機にかかわってくる。他方、態度決定に係る論点は、センの行為主体相関性・非帰結主義の議論を承けたノエシス的契機にかかわる。今後、とくにノエシスにおける義務論的様相を、拡張された選択肢における多機会集合選好という非帰結主義選好と連関させる。そのさい、確率概念に言及することによって、新カント学派の規範概念に、厚生経済学的含意をもたせたい。 今年度、最終年度なのでHPに去年の研究会の成果をまとめ、六章構成から成る報告書を発行する予定である(印刷は限定された部数にし、pdfをHPに公開する予定である)。
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備考 |
発表した論文がアップロードしてある。また既発表の論文のリンクが張ってある。 研究会の準備に使った資料・研究協力者の発表資料等が掲載(なお、九鬼の考えが発展していった過程がつぶさにわかるように、段階を追って資料が閲覧できるように工夫されている)。また研究中のアイデアは同HPの「九鬼の哲学日記」にて、追跡できる。最終年度には研究成果のpdfをHPにて公開する予定である。
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