本研究は、「證人社と證人書院の間―明清期寧紹地区に見る思想史の転変―」と題し、明末に紹興で劉宗周らが開いた「證人社」と清初に寧波で黄宗羲が切り盛りした「證人書院」について、その構成・理念・運営実態・思想傾向を比較することを通して、明清思想の転変の一様相を実証するものである。研究期間内、江西省無錫市・常州市および浙江省紹興市・餘姚市で現地調査を行い、惲日初の事績(惲日初もそこで学を講じたことのある無錫の東林書院、彼の子である惲南田の墓〔彼もそこに葬られていることを現地で確認した〕)や證人社・姚江書院関連の地点を訪れ、古地図等も参照しながらそれぞれの位置関係を確認し、写真撮影を行った。また、調査の前後に資料収集を行うこともできたため、劉宗周学派の活動を、より実相に近い形で検討することが可能となった。期間内に公表した学術論文には、「語らない周夢秀を語る―王龍溪とジョウ県の周氏」(単著。小路口聡編『語り合う〈良知〉たち―王龍溪の良知心学と講学活動―』研文出版、280-310頁)、「何俊著「劉宗周の『人譜』―人生を完成させるための点検簿―」訳注」(単独訳。『信州大学人文科学論集』第5巻、173-196頁)、「劉宗周に於ける意と知-史孝復との論争から-」(『東洋古典学研究』第46集、17-44頁)がある。これらの成果により、明清期寧紹地区における思想史の転変を明らかにすることが出来た。また、前記『語り合う〈良知〉たち―王龍溪の良知心学と講学活動―』では、中国人学者の論文を日本語訳し、また、2018年8月23日に中国上海にある復旦大学で開催された「宋明理学国際論壇~曁上海儒学院第二届年会~」で「劉宗周的“意”与“知”」と題する研究報告を行う等、国際的な学術交流の促進にも、本科研を役立てることができた。
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