中国科学思想の理論構造について多角的な考察を試み、その形成過程と史的展開を探った。先秦諸子百家から漢代経学への思想的変革期において、(1)老子と易の自然哲学の交錯、(2)天人感応説の漢代的展開、(3)緯書の数理思想、(4)王充の自然哲学、などの事項を中心に検討し、思想と科学、占術とが複合していく具体的様相を考察した。そして、そこで大いに議論された物類相感説、暦運説や五行六気説が、中世以降の医薬学、術数学または道教の周辺の養生術、自然学においてどのように展開したかを窺い、研究成果を一書にまとめた(今秋に臨川書店から刊行の予定)。また、医薬学の陰陽五行説や運気論、薬理に関する論考は、『医道の日本』において連載コラムを発表した。 10月25-28日には、東西科学知識の交流という視点において、宇宙ユニット、白眉センターとの共催で『天と地の科学―東と西の出会い』を総合テーマとする大規模な国際会議を開催した。また、近年に出土した老官山医簡の調査チームの研究者(8月は成都中医薬大学から4名、12月は中国中医科学院中国医史文献研究所より4名、成都文物考古研究所より1名)を招聘し、特別講演会を開催して中国医学のパラダイム形成をめぐって遡及的な討議を繰り広げた。京都大学所蔵の古医書関連の漢籍について、森ノ宮医療大学教授の長野仁氏とともに附属図書館と連携して、既存の目録の修正を試みデジタル化を行った(附属図書館HPにて公開中)。12月に山東大学国際漢学センターの中心メンバーを招聘し(鄭傑文、劉心明、陳肖杉、西山尚志の4氏)、山梨県立大学准教授の名和敏光氏にも協力を仰いで、易学関連書、古医書のデータベース化及び善本叢書の出版に向けた協議を行った。また、出土簡帛の占術書、『宿曜経』、近世養生書などの読書会を催し、中国科学思想史の研究基盤と研究者ネットワークの構築を積極的に推進した。
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