本研究は、9世紀頃のインドに現れた思想家バースカラの著作の一つである『バガヴァッドギーター註解』を取り上げ、1965年に出版された初版本にみられる不備を写本等の資料に基づいて修正し、新しい校訂テクストを作成することである。 本年度は昨年度に引き続きヴァラナシのサラスヴァティ―・バヴァン所蔵のV写本との照合に加え、ロンドンのウェルカム・インスティテュート所蔵のL写本(シャーラダー文字写本)との照合を行った。V写本とL写本にみられる異読の検討を行いながら本文を読解し、判読の難しい箇所を除く写本資料の全体の照合を終えた。シャーラダー文字写本の評価方法については、ドイツ・マルティンルター大学ハレ・ヴィッテンベルク大学のスラーイェ教授と意見交換を行った。 本文を読解するなかで、同著者の手による『ブラフマスートラ註解』との比較参照も進めた。また、本文中で引用される章句についても、電子テキストデータベースなどを利用してできる限りそのソースの同定を進め、バースカラをとりまく当時の思想状況を明らかにするための資料収集を進めた。テクスト校訂作業で得られた知見の一部については"The Development of the Concept of avidya in Vivarana Tradition"などにまとめ、2018年5月にインドで開かれた会議で発表した。 校訂テクストは、イントロダクション・註記・インデックスを付し、デーヴァナーガリー文字を使用した新しいエディションとして近日中に出版公開する予定にしている。
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