本研究は中世以降のヒンドゥー教の展開において重要な役割を果たした『バーガヴァタ・プラーナ』に対して中世マラーティー語で著された注釈書『エークナーティー・バーグヴァト』を取り扱い,インド西部における帰依思想の16世紀以降の発展を明らかにするものである。 研究最終年度である本年度は,これまで解読した第一章・第二章および第七章から十章のテキストにもとづいて,エークナートが示す民衆的なバクティ思想の全容を明らかにするとともに,この聖典を,同じワールカリー派においてこれより先に成立した聖典群や,後代に成立したエークナート自身の行状記,そしてワールカリーと同時期に発展したマハーヌバーヴ派の聖典群などとの比較検討によって,この『エークナーティー・バーグヴァト』がワールカリー派の隆盛を牽引した理由を考察した。端的に言って,エークナートの帰依思想は先行するジュニャーンデーヴやナームデーヴよりは,むしろ正統ヒンドゥー思想との親和性を強く示しており,それこそがヴィッタル神に対する諸々のバクティ的信仰を,一つのワールカリー派としてまとめ上げる原動力となったのだろうと思われる。 12月-1月にはインドにおいて現地調査を実施した。この際には,本研究に必要な資料収集を実施するとともに,プネー在住のマラーティー文学,ヒンドゥー思想を専門とする研究者と資料分析に関する議論を行い,テキスト理解やワールカリー派のバクティ思想に関する理解を深めた。 これらの作業で明らかになった知見にもとづいて,本年度は主に帰依思想と出家や教団形成との関わりについて考察し,いくつかの研究報告を関連する研究会やシンポジウム等で行った。
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