研究実績の概要 |
東ベンガル出身の仏教僧Vanaratna (1384-1468) 旧蔵サンスクリット文法学関連写本について、論文を刊行した。当該論文は、本研究課題の一環として実施した大英図書館における写本実見調査に基づくもので、識語を含むフォリオのカラー写真を同館の許可を得て掲載した。インド・ビハール州ガヤー県における村落調査の結果にも触れている。識語には年代・日付と村落名が記載され、15世紀前半にボード・ガヤー近郊の村で作成されたことが確認できる。その結果、「インド仏教は13世紀初頭に滅亡した」という従来の通説を覆し、15世紀前半まで大乗仏教徒が東インドで活動していたことが確実となった。 本年度は西インドに出張し、Asiatic Society of Mumbai(ムンバイー), Chhatrapati Shivaji Maharaj Vastu Sangrahalaya (略称CSMVS, ムンバイー) および Vadodara Museum & Picture Gallery (ヴァドーダラー) で、サンスクリット写本の実見調査を実施した。CSMVS所蔵サンスクリット写本のカタログは公刊されていないが、従来知られていなかった東インド写本の存在が明らかとなった。 4年間の研究期間内に、欧米・インドの美術館・博物館でサンスクリット写本の実見調査を実施した結果、カタログ化されていない多数の写本を閲覧できた。その多くは細密画を含むため、従来主にインド美術史の資料として研究されてきたが、その本文は各文献の校訂研究に有用であり、識語は東インド中世史や後期インド仏教史を書き換える可能性もある貴重な史料であることが判明した。
|