本研究の目的は,チベットに伝承された中観思想の成立とその歴史的展開を解明すべく,特に十五世紀以降のゲルク派の中観文献を主資料として,そのための研究の基礎付けを行うことである.具体的には,チャンキャ(1717-1786)の『教義書』中観派章の読解と翻訳作業を通じて,インド及びチベット初期中観文献との比較対照を行い,その思想的前提と独自性を解明することを目標とする.方法論的には,従来のText Critiqueに基づく文献学的手法のみに基づくのではなく,応募者の十年間にわたるチベット僧院修学経験を生かし,そこで収集した口承情報を十二分に活用した新しい仏教教学研究の方法論の構築を試みた.
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