研究課題/領域番号 |
15K02047
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
志賀 浄邦 京都産業大学, 文化学部, 准教授 (60440872)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルチャタ / ジャイナ教 / サマンタバドラ / クマーリラ / Aptamimamsa / Slokavarttika / Hetubindutika / anekantavada |
研究実績の概要 |
平成28年度は,アルチャタ著『論証因一滴論』に紹介されるジャイナ教学説とそれに対するアルチャタの批判部分についてテキスト校訂と読解を進めた。同箇所は,アルチャタによるジャイナ教徒の批判の後に45偈の要約偈が続くという構成となっているが,サンスクリット語写本とチベット訳,またジャイナ教文献に見られる並行箇所等を参照しながら,要約偈を含めたテキストの校訂作業を進めた。さらにその校訂テキストを元に現代語訳(英訳)を作成した。同研究の成果については,2017年3月にオーストリア科学アカデミー・アジア文化・思想史研究所において開催されたワークショップにおいて参加者と共に検討・議論する機会を得た。また同ワークショップの前に行われた講演会では,報告者がこれまでの研究成果をまとめ,"Arcata's description and criticism of the Jaina theory of manifoldness (anekantavada)"(アルチャタによるジャイナ教思想[多面的実在論]の描写とそれに対する批判)というタイトルの口頭発表を行った。同講演会においても,発表後のディスカッションの際に参加者から有益なコメント及びフィードバックを得ることができた。また,2016年9月に東京大学で行われた日本印度学佛教学会第67回学術大会においては,「Aptamimamsa第59偈をめぐる諸問題」という標題の口頭発表を行った。本発表では主に仏教徒がジャイナ教学説を紹介する際頻繁に引用される一連の偈について考察したが,その際他の文献(Slokavarttika等)に見られる類似の記述との比較も行った。上記の発表は,"Problems Concerning Aptamimamsa 59"というタイトルの下,『印度学仏教学研究』第65巻第3号(2017年3月出版)に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初立てていた研究計画はおおむね順調に進展していると言える。上記の通り,平成28年度は主に,アルチャタ著『論証因一滴論注』に見られるジャイナ教学説とそれに対するアルチャタの批判部分のうち,特にその末尾に位置する45偈にわたる要約偈についてテキスト校訂と翻訳の作業を行った。当初の研究計画では,当該年度は「ドゥルヴェーカミシュラによる『論証因一滴論注』に対する復注の調査」という研究テーマで研究を進める予定であった。ドゥルヴェーカミシュラによる復注の名称は『論証因一滴論注の光』(Hetubindutikaloka)であるが,『論証因一滴論注』に見られる45の要約偈を読解・解釈するにあたっては,同テキストを常に参照した。同復注を参照することにより,『論証因一滴論注』の記述をより正確にまた包括的に理解することが可能となった。しかしながら新発見の復注の写本については,判読が困難な筆跡で書かれていることもあり,現在のところ該当箇所の文字起こしを開始したにとどまっている。このような事情から,同写本のテキスト研究は若干遅れ気味であるため,平成29年度以降精力的に進めていきたい。思想研究については,ドゥルヴェーカミシュラとその師匠にあたるジターリの記述を比較することにより,両者がジャイナ教思想をどのように提示・批判しているかについて調査を進めた。思想研究については,当初の計画を上回るペースで進展している。研究計画には盛り込んでいなかったものの,ジャイナ教文献(Aptamimamsa他)とミーマーンサー学派の文献(Slokavarttika他)に見られる類似の記述を比較検討し,その調査結果を発表することができたのは研究課題全体から見ても大きな前進であった。以上から,トータルで見れば「おおむね順調に進展している」と言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」でも述べた通り,ダルマキールティによる『論証因一滴論』の新発見の復注の写本については,判読が困難であることもあり,当初の計画より若干遅れ気味である。平成29年度はこの解読作業を精力的に進めていきたいと考えているが,独力による写本の解読が難しい場合は,国内外のサンスクリット語写本の専門家の協力を仰ぎたい。また平成29年度は,「『論証因一滴論注』の所説を引用するジャイナ教文献の考察」を主要テーマに据えて研究を進めていく予定である。原典研究では,アルチャタによる『論証因一滴論注』のジャイナ教学説の提示及び批判の箇所が引用されるジャイナ教文献について,すでに知られているものも含めて網羅的に調査し,そこに見られる並行箇所を『論証因一滴論注』の本文と比較し異読を記録するという作業を進める予定である。『論証因一滴論注』からの引用がすでに確認されているものとしては,『論理の決定注解(Nyayaviniscayavivarana)』『生起等の確立(utpadadisiddhi)』等があるが,これらの文献の当該箇所を精査するところから始めたい。なお,平成29年3月にオーストリア科学アカデミー・アジア文化・思想史研究所にて開催されたワークショップにおいて『論証因一滴論注』の関連箇所の校訂テキストと英訳を参加者と共に検討する機会があったが,同部分についての並行箇所と異読の記録についてはその折にすでに完了している。平成29年度はその成果をベースにさらに作業を進めていきたい。思想研究としては,上記のジャイナ教文献そのものを読解し,アルチャタの見解がジャイナ教徒たちによってどのように再批判されているかを考察したい。ジャイナ教文献を読解する際には,国内外のジャイナ教思想の専門家に助言及び協力を求めたい。
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