当時の資料には数多くその名とその業績が認められているにもかかわらず、宗派仏教を研究の中心とする現在の中国仏教史学の中で抹殺されてしまった人物が彦琮である。このように歴史学の中に埋もれた人物を正しく発掘し、その崇高な功績を顕彰できた点に重要な意義がある。これまでのかたよった中国仏教史学研究のありかたに一石を投じたことになる。 とりわけ彦琮の漢訳法規である『弁正論』の読解は翻訳のあり方の問題に重要な考え方を提供したものであり、また『通極論』では仏教と儒教とのかかわりの中で著された注目できる著作であることも、今後の仏教と中国在来思想との相互研究に資することになるはずである。
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