平成29年4月に中国を調査し、前敦煌研究所長の劉永増氏の紹介で成都最大のチベット仏教美術蒐集家であるテンパ・タルギェー氏の大吉喜馬拉雅博物館を見学し、ミトラ百種曼荼羅集の断片を発見するなど、大きな成果があった。成都の調査終了後、青海省西寧に向かい、シャキュン寺で胎蔵の砂曼荼羅制作を調査した。その成果は、高野山大学大学院紀要に寄稿した論文で明らかにした。故藤田弘基氏が撮影した仏教美術の写真をデジタル化する「藤田アーカイブス」は、『チベット文化研究会報』の28年4月号からデータベースの連載を開始し、平成29年度は、チベットハウス(ニューデリー)所蔵のチベット美術と、パトナ博物館、インド博物館(コルカタ)、ナーランダー考古博物館所蔵のインド仏教美術の図像データベースを公開した。 申請者の博士論文『インドにおける曼荼羅の成立と発展』は、2014年末に米国のWisdom Publicationsと英語版刊行に向けた契約書を交換した。ところがその後、担当編集者の辞職により、作業が中断していたが、東大の同窓生であり、英語版の英文校閲をお願いしたロルフ・ギーブル氏に、Wisdomとの交渉や編集補助を委嘱したところ、作業が急速に進展し、2018年12月の刊行が決定した。 平成29年7月に、渡辺出版から『梵文 普賢成就法註研究』を刊行した。また9月の成都訪問で、後期密教の重要典籍『アームナーヤ・マンジャリー』の梵蔵対照テキストを発見したので、『東京大学東洋文化研究所紀要』172冊に新資料紹介の論文を寄稿した。昨年2月から東京国立博物館の客員研究員として、館蔵のチベット美術の整理を担当することになり、その新知見は、同東洋館で開催された「チベットの仏像と密教の世界」展(9月5日~10月15日)に反映された。
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