研究課題/領域番号 |
15K02051
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
戸田 聡 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (20575906)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 古代キリスト教 / ギリシア語 / 聖書ギリシア語 / アラム語 / ヘブル語 / シリア語 / コプト語 / 翻訳 |
研究実績の概要 |
まずコプト語関連では、平成28年度では国際コプト学会に参加して研究発表を行なった。但し諸般の事情により、研究発表の内容は、当初期していた「ナグ・ハマディ写本所収のコプト語文書」の分析ではなく、コプト学上で百年以上未解決とされてきた(したがって、コプト学自体の上での意義は極めて大きいと言える)パホーム文献に関する分析となった。パホーム文献の著作原語が何語かを特定することによって解決されるべきこの問題は、何人もの研究者がこれまで手がけてきて解決に至らなかった難問であり、研究代表者による研究発表も、いくつか有力な手がかりを得たとは言えるものの、最終的な問題解決には未だ至っていないと言わざるをえない。この点については今後さらに検討を重ねる必要がある。 他方シリア語関連では、ローマで行なわれた国際シリア学会への参加は諸般の事情(出張費が嵩む等、主として財政的な理由)により断念し、代わりに、韓国ソウル市で開催されたSBL International Meetingに参加してシリア語関連の研究発表を行なった。シリア語の福音書伝統に関するものであるこの研究発表自体は、なお荒削りな段階にはあるものの、ギリシア語とシリア語のキリスト教的伝統(特に聖書文書の伝統)の交錯に関する興味ぶかい問題に接しており、今後さらなる展開が期待できる。そしてこの研究発表との関連で、方法的にシリア語キリスト教の初期の重要著作家であるエフレムにおける聖書(福音書)引用の問題について急遽検討する必要が生じ、これに関して所属大学の紀要で研究論考を公刊した。 また、これは当初の研究計画の中には必ずしも明確に含まれていなかった分野になるが、平成28年度には聖書ギリシア語の研究との関連でギリシア語版旧約聖書に関する研究発表を関連の学会(IOSCS)で行ない、同発表は論文として同学会の会議録に収録されることが決まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は元来様々な個別的研究の集成であり、個別的に見ると、計画以上に進展している部分もあれば、必ずしも計画どおりに進展していない部分もある。上記評価区分欄で「おおむね順調に進展している」を選択したのは、それら全体を総合的に評価した結果であることをまずお断わりしておきたい。 より具体的に言えば、まずシリア語関連では、当初企図していたバルダイサンに関する検討は諸般の事情により思うような作業継続が実現できていないが、それに代わるものとして、シリア語の福音書伝統に関する研究で予想外の好展開が得られ、その関連で紀要に研究論考を公刊するなど、既に多少の成果も出始めている。これは予想以上の進展と評することが可能である。 これに対してコプト語関連では、「研究実績の概要」欄で述べたように、ひょんなことからコプト学上の難問に再び取り組むこととなり、なかなか解決の展望が得られずに苦労しているというのが率直なところである。ただ言うまでもなくこの停滞は、研究代表者の怠慢によるわけでは決してなく、取り組んでいる問題自体の困難さによるところが極めて大きい。とはいえ、これに関連して全く成果が得られていないというわけでも必ずしもなく、今後さらに検討を進める中で進展を図ることは不可能でない。よって、コプト語関連では、研究の進展は現状では「遅れている」と評するほかないが、進展の見込みが全くないわけではない。 さらに平成28年度には、上述のとおり、聖書ギリシア語の研究との関連でギリシア語版旧約聖書に関する研究発表を行なうことができた。これはそもそも当初計画の中で少なくとも明確な仕方では言及されていなかった分野の話だが、内容的に全く無関係というわけでは無論決してない。加えて、このような追加的な作業負担が加わったにもかかわらず、当初計画の少なくとも一部では進展が見られた、ということはここで特記しておいて良いだろう。
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今後の研究の推進方策 |
ところで、研究代表者がこの期間に手がけた研究であって、以上述べてきた諸分野以外の研究も存在する。それは例えば福音書自体に関する研究や共観福音書問題に関する研究であり、研究代表者自身の中ではこれら研究も、古代キリスト教の総合的把握を目指す自らの研究の大枠の中で各々重要な位置を占める。当然ながらそれら研究は、本研究課題の主たるテーマを成すシリア語関連・コプト語関連の諸研究と並行して進められねばならない。 このような展開を踏まえて、昨年の実施状況報告書では「当初の研究計画の枠組みを維持しつつ、機動的な展開を図ることが有効だと考える」旨述べた。この立場は今年も全く同じであり、本研究課題の最終年度に当たる平成29年度でも、海外の諸学会への機動的な参加などを構想していきたい。 現時点で具体的に決まっていることを記すと、8月上旬にはドイツ・ベルリンでSBL International Meetingが開催され、同学会ではシリア語関連の研究発表を行なう予定である。また、9月にはイタリアで国際マニ教学会が開催される予定であり、これにも極力参加する方向で予定等を組み立てている。ただ、マニ教学会の場合、現時点(4月17日)で主催者からの連絡が未だ具体的でなく(いわゆるCall for Papersは未連絡)、今後の推移を注視する必要がある。 その他、6月末にエルサレムのヘブライ大学でOrigenianaなる学会が開催され、これへの参加も予定している(既に研究発表を申し込み済みで、発表資格を得ている)。この研究発表はシリア語・コプト語のいずれにも直接的にはかかわらないものとなるが、3世紀という時代に関する一層明確な理解を得ることはシリア語・コプト語いずれの関連の研究の前提としても重要な意義を有すると言える。
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