2019年度は、出生前診断の可否や胎児に障害がある場合の中絶の可否について、イスラーム・スンナ派の法学者のファトワー(法的回答)を中心に分析した。サウジアラビアの法学者が監修しているイスラームQ and Aなどを参照し、妊娠中の夫婦などから寄せられる質疑応答を収集、読解し、論文を執筆した。スンナ派法学者のファトワーによれば、出生前診断については許可されていた。また重い障害が確定した場合、育てることが困難であれば、中絶は容認される。ただし、具体的な病名は挙げられておらず、医師の判断によるのかもしれない。一方、シーア派では許されないとするファトワーもみられるが、選択的中絶法が可決されたように、中絶が許されるケースもある。また障害者だけではなく、広く弱者についても研究を進める必要があると考え、LGBTや女性、ジェンダーについても発表を行った。男女の役割分担がイスラームではかなりはっきり分かれており、欧米のような男女同権とは異なる男女観が支配的である。その規範から外れてしまうLGBTやフェミニストたちの活動が、イスラーム圏ではまだ困難であるが、欧米では始まりつつある。ただ男性中心のコーラン解釈の男女観や役割分担は、ガザーリーなどの古典思想にも受け継がれているということも重要であり、それについて論文を執筆した。
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