研究課題/領域番号 |
15K02063
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
寺戸 淳子 専修大学, 文学部, 兼任講師 (80311249)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 宗教学 / 人類学 / 倫理学 / 障害者 / 共生社会 / 平和学 / 市場経済 / 国際比較(フランス・カナダ・イギリス・日本) |
研究実績の概要 |
1.平成28年度は主にイギリスの〈ラルシュ〉共同体で現地調査を行った。 8月1日から9月2日まで〈ラルシュ〉ケント(カンタベリーとその近郊。イギリスにおける最初の共同体)でグループ・ホームの一軒にアシスタントとして住み込み、参与観察を行った。過去3年間にカナダとフランスの計3つの〈ラルシュ〉共同体で行った調査同様、日常生活で交わされる会話・言動を重視した調査を行うと同時に、他のホームのアシスタント、事務局スタッフ、その他関係者へのインタビューを行った。外国人スタッフの多さという特徴、および、イギリスの社会福祉制度のもとで「社会福祉法人としての〈ラルシュ〉共同体に求められるプロフェッショナリズム(の特徴)」と「共同体創設時の理念」の間でバランスを取ることの困難という問題を通して、「市民社会(が/を支える経済的制度)と生活者の接合」という問題の重要性が認識され、平成24~26年度科学研究費助成事業基盤研究(c)「市場経済批判としての『知的障害者との共同生活』運動の思想・実践的可能性の研究」の成果からの新たな展開の手がかりを得ることができた。 また9月3日から7日までロンドンに滞在し、〈ラルシュ〉ロンドンの訪問調査を行った。 2.日本宗教学会第75回学術大会で、「〈ラルシュ〉共同体運動の『公共性』と『宗教性』」という題目で本研究の成果を発表した。その際、櫻井義秀教授(北海道大学)が研究代表者を務める共同研究とのつながりが生まれ、平成29年にEAJS(ヨーロッパにおける日本研究者の学会)国際大会で〈ラルシュ〉共同体の国際比較について発表することとなった。また、安藤泰至准教授(鳥取大学)が平成29年日本宗教学会学術大会で組む生命倫理と障害をめぐるパネル発表に参加することとなった。成果発表を通じて関係領域の研究(者)と新たなつながりが生まれ、研究の展開にとって非常に有益な結果を得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画作成時に〈ラルシュ〉国際本部で計画されていた「50周年記念行事(全世界の共同体創設者のインタビュー)」に進展が見られないため、計画の変更を余儀なくされたかわりに、当初計画していなかったフランスとイギリスの共同体での調査を行ったことで、各共同体の経済活動状況、当該社会における福祉制度との関係、「アシスタントとスタッフの国際化」状況の違いなどについて、現場に即して考察することができた。また資料収集に関しては、現地共同体にアーカイブスがない、あるいは調査期間が8月(欧米では夏休みで資料室の閉室時期)のため担当者が不在であるなど、過去の記録に関しては不具合があるものの、現状に関してはネット上で公開されている情報が豊富であり、研究環境として良好である。
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今後の研究の推進方策 |
計画では、今後バングラデシュの共同体で調査を行うことになっているが、治安状況から調査先の変更(アジアの他の共同体への)も視野に入れて検討中である。だが、平成28年度の調査・研究を通してバングラデシュの共同体とのつながりができたので、実現可能性は十分あると考えられる。また平成29年度は、上記(「研究実績の概要」欄)EAJS国際学会への参加の他、子どもを取り巻く暴力の問題への具体的対応を目指す宗教者ネットワークの国際フォーラムにも参加する予定であり、暴力の問題をめぐる知見と考察を深めるだけでなく、新たなつながりを築く機会として期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の変更を余儀なくされたために平成27年度に発生した次年度使用額が、平成28年度に長期現地調査を遂行するうえで大きな助けとなっただけでなく、当初の計画にはなかった平成29年度以降の調査のためにも、その一部を繰り越して有効活用することが可能となった。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画にはなかった国際学会(EAJS)への参加と、海外での追加調査(パリの〈ラルシュ〉共同体と〈ラルシュ〉国際本部の訪問調査、および、国際平和への貢献を志す若者を支援する〈インテルコルディア〉という組織のサポートを得ながら〈ラルシュ〉共同体運動に参加した若者の調査)など、さらに充実した研究を遂行するために用いる。
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