研究課題/領域番号 |
15K02065
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡部 奈々 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, その他(招聘研究員) (00731449)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 公共宗教 / 救済宗教 / アルゼンチン / カトリック教会 / カリスマ刷新運動 / 第二バチカン公会議 / 民の教会 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、アルゼンチンカトリック教会の公共宗教性と救済宗教性の特色を明らかにすることである。具体的には①アルゼンチンカトリック教会が国家宗教から公共宗教へと変容した歴史的経緯を整理分析し、②カトリック教会内に存在する二つのグループ「組織教会」と「民の教会」における、公共宗教としての実践を調査する。さらに、近年カトリック教会が推進している③カリスマ刷新運動に焦点を当て、一般の公共宗教論に欠如しているカトリシズムの救済宗教的側面を明らかにすることである。 成果としては、博士学位論文(2016年7月)「アルゼンチンカトリック教会の変容-国家宗教から公共宗教へ」があげられる。同論文では、「組織教会」と「民の教会」における公共宗教的側面を検討し、第二バチカン公会議(1962-65年)以降の神学的変化と司牧活動の具体的変化を明らかにした。また、日本ラテンアメリカ学会東日本部会(2017年1月)と、アルゼンチン・ブエノスアイレスの国立科学技術研究所労働研究調査センター(CEIL)にて研究発表を行った。 カリスマ刷新運動に関しては、2017年3月にアルゼンチンで海外学術調査を行った。具体的には、国会図書館、カトリック系書店・出版社、一般書店での資料収集と、カリスマ刷新運動が盛んなサン・フスト教区サグラド・コラソン・デ・ヘスス教会においてカリスマミサの参与観察と、その比較対象としてペンテコステ派のグアッタンブー教会とプロテスタントの在亜キリスト日本人教会において礼拝参与観察を行った。さらに、カリスマ系出版社キリオスの代表者、「民の教会」の司祭とのインタビュー、CEILにおいては宗教社会学を専門とする現地研究者たちから研究に関する助言を受けることができた。現在は収集資料の分析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
博士学位論文において、アルゼンチンカトリック教会の公共宗教性の特色は概ね明らかになったが、今回の調査では、麻薬撲滅活動と依存症者支援を行う司祭から直接話を聞くことによって、公共宗教としての「民の教会」の実態により近づくことができた。近年、アルゼンチンでは麻薬が深刻な社会問題となっており、社会司牧に従事するカトリック司祭が麻薬密売組織から脅迫され、教区異動を余儀なくされるケースも少なくない。 さらに、アルゼンチンの麻薬問題はカトリック教会の救済宗教性を考える上でも非常に重要である。信徒の多くが、自分や家族の薬物依存症からの回復を求めて、癒しのミサ(カリスマミサ)に参加している。つまり、社会司牧活動による具体的な依存症からの回復と、カリスマミサによる超自然的な癒しが存在していると考えられる。今後、麻薬問題と依存症からの回復(癒し)を検討することにより、カトリシズムの救済宗教的側面を明らかにしていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、カリスマ刷新運動に関する分析を引き続き行うが、麻薬問題と依存症からの回復(癒し)を扱うことにより、アルゼンチンカトリック教会の公共宗教的側面と救済宗教的側面を重層的に考察し、論文として発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度と29年度の現地調査をまとめて行うために、前倒し支払いを請求し受理されたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は現地調査を行わないため、旅費以外の費用(設備備品、消耗品、その他)に使用するつもりである。
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