本研究は、欧米で概念化された人種主義を歴史的・思想史的に後付け、現代日本にその概念を適応する際の歴史的・社会的条件を考察・吟味することで、歴史的現象として欧米に特化されてきた人種主義を、日本を含む現代諸社会の構造的かつ普遍的な問題として捉える理論的パースペクティヴを構築することを目的とするものである。 そこで一昨年度までは、欧米由来の概念である人種主義が日本において適応されるための諸条件を考察することで、逆にこれまで欧米の地域性・歴史性に根拠づけられてきた人種主義の普遍的な構造を剔抉して、日本における人種主義を批判的に考察する理論的フレームワークの構築を試みた。欧米では、大航海以来の植民地支配の統治の技法を、国民国家の形成過程で国内の統治に転用し、国民統治のための人権配分を行うためのイデオロギーとして機能したのが人種主義であった。日本では、明治政府が近代国民国家を作るべく、欧米の国家形成に倣って人種主義的な統治の技法を国民統合に利用し、その必然として植民地主義的な政策が行われたことを明らかにした。 昨年度は、日本をケーススタディにして構築された批判的人種主義理論を、再度欧米の人種主義概念の形成過程に適用し、反セム主義と反黒人主義の二つの潮流に分断されてきたモメントに着目することで、地域的・歴史的に限定されることで人種差別の事象史でしかなかったものを、より構造的かつ普遍的な人種主義の社会思想史として把握するフレームワークを構築した。その成果としては、李孝徳「人種主義」『社会思想史事典』丸善出版、2019年、pp.440-441がある。
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