本研究最終年度においては、先行年度内に行った研究をふまえ、アウグスティヌスの「原罪」概念に基づく人間理解と「嘘」をめぐる言語論の結節点を明らかにする研究に取り組んだ。はじめに、彼の嘘論の土台として創世記解釈があるという見通しのもと、初期著作の一つ『マニ教徒に対する「創世記」注解』を分析した。そしてそこで提示されている解釈が、人間は自らに嘘をつくあり方をもつが故に自らを知ることができず、自力では救われないと論じる中期著作『告白』の議論とすでに一致していることを明らかにした。この研究は、"Deception and self-knowledge in Augustine’s interpretation of the paradise myth"と題して7月に国際学会で発表、その後、論文集に投稿中である。続いてこの成果に基づき、中期著作以降、「嘘」を人間の本性とみなす人間観がどのように展開しているかを分析した。その結果、後期著作においては、「あらゆる人間は嘘つきである」という初期著作では語られない言説が重視されており、人間本性としての「嘘」の概念がアウグスティヌスの原罪論の軸となっていることを明らかにした。この成果は"Lying as a human nature: Augustine’s concept of lie in the Pelagian controversy"と題して9月に国際学会で発表した。さらに、これら二つの研究を総括する発表を、11月に国内学会のシンポジウムで行った。 また、アウグスティヌスにおける性差の概念が聖書解釈を土台としながら彼独自の原罪に基づく人間観と密接に関係していることを、「アウグスティヌスと女性――性欲、女性性、友愛」と題し、『愛と相生』(教友社、2018年)に掲載した。
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