本研究は、五つの段階を踏んで、18世紀フランスにおける中国表象のあり方を解明することを目指した。すなわち、(1)『百科全書』の中国関係項目の分類・整理、(2)その典拠文献の解明、(3)主要執筆者の中国観の分析、(4)『百科全書』全体の中国観の分析、(5)『百科全書』の周辺に位置づけられる文献における中国表象の分析、である。 最終年度に当たる平成29年度には、段階(4)の研究に注力して一定の成果を得た。その反面、段階(5)については必ずしも深められたとは言えない。 まず、段階(4)の研究について記す。『百科全書』全体の中国観は、主題と評価の多様性によって特徴づけられることが浮き彫りになった。主題の多様性とは、地理・歴史・博物学・政治・通商・宗教哲学・習俗・言語・学問・技芸など、あらゆる角度から中国が論じられていることである。18世紀のフランスにおいて、中国は単なる異国趣味を超えた思想的課題であった。評価の多様性とは、中国に対する高評価と低評価が混在していることであり、さらには論点に応じてその都度是とも非とも見なす立場すら見られることである。要するに、『百科全書』の中国観をひとことでまとめることができないほど、『百科全書』は多面的な中国表象を提示しているのである。 次に、段階(5)の研究について述べる。当初の計画では、『百科全書』のほかに『トレヴー辞典』およびモレリ『歴史大辞典』の中国関係項目を整理・分類することにしていた。両辞典に収録された中国関係項目のうち、主要なものは調べられたものの、網羅することはできなかった。その点は深く反省しているが、応募時に想定していた「研究が当初計画どおりに進まない場合」の範囲内ではあった。すなわち、周辺文献にまで研究が及ばない可能性は考慮に入れており、それでも『百科全書』に限定すれば、成果は上げられたと考えている。
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