研究課題/領域番号 |
15K02075
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
イ ヨンスク 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (00232108)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 文化的越境 / 美意識 / 近代日本 |
研究実績の概要 |
平成28年度は近代東アジア、とりわけ近代日本と朝鮮にどのような近代美学が創出されたかに注目した。その成果は、平成28年3月31日から4月3日までアメリカのシアトルで開催された2016年アジア学会年次大会において、“Choi Sunghui(1911-1969): A Korean Dancer of Diaspora in the Crossroad of Modernity, Ethnicity, and Cold-war”と題して発表した。そこでは、まず植民地朝鮮でどのように宗主国日本からモダニズムが受容されたのかという問いを立て、植民地主義と日本的ロマン主義のアンビバレントな交差と相克を分析した。 平成28年8月5日、6日にカンボジアのプノンペンで開催された「ワン・アジア・コンベンション」では、崔承喜と彼女のモダンダンスの師匠である石井漠の作品をModernityとEthnicityの観点から分析した。その発表の成果は2017年7月には出版される予定で、すでに入稿済みである。 「近代日本と朝鮮における美意識の変容と文化的越境」の課題を進める中で、「帝国」という政治的、地理的、文化的装置が根幹にあることを再確認した。平成29年3月20日(月)、21日(火)、22日(水)の三日間にわたって、アメリカのUCLA で開かれた国際シンポジウム“Empire of Others”はまさにこの問題を真摯に議論したシンポジウムだった。研究代表者は言語の観点から、"Language and the ideology of the modern emperor system"と題した発表を行った。 文化的越境を現在の視座から、考えてみる作業も試みてみた。その成果は「日本語教育」「多文化共生」「言語とナショナリズム」などのテーマのもとに、学会ないしシンポジウムで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「近代日本の美意識と文化的越境」の問題を追究するなかで、美意識の変容、帝国と植民地主義、言語とナショナリズムなどのテーマを柱として立て、学会やシンポジウムにおいて年間6本の研究発表を行った。そのうち4つは国外であり、研究成果の国際的発信を積極的に進めることができた。なかでもアメリカのUCLAで開催された国際シンポジウムで行った発表では、国際的に著名な研究者との意見交換を行うことができ、今後の研究の進行を決定づけるほどのインパクトを受けた。また、平成29年度のアジア学会での研究発表も決定しており、研究が順調に進行している。 研究内容の点では、当初はSadakichi Hartmanの研究を進める予定であったが、研究を進めるにしたがって、対象を舞踏という分野に限定した方が、より明確な議論ができることに気づいたため、研究の過程で発見した植民地台湾の舞踏家蔡瑞月を取り上げることとした。この成果は次年度に公にする。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向は、近代日本と植民地朝鮮における「伝統舞踊」と「モダンダンス」の代表的作品をより具体的に考察することで、「近代日本と朝鮮における美意識の変容と文化的越境」の実態を浮き彫りにすることを目指す。学会やシンポジウムにおける研究発表を積み重ね、多くの研究者との意見交換を経ることで、成果はより成熟したものになることが期待できる。その際には、視点をより複合的にするために、近代日本と朝鮮だけではなく、植民地台湾のモダンダンサー蔡瑞月も視野に入れながら研究を進める。それによって近代アジアを結ぶ美意識のネットワークとその矛盾のあり方が、より多角的に分析できると思われる。その研究成果は、平成29年6月に韓国のソウルで開催されるアジア学会で発表する予定である。また、ミシガン大学のEmily Wilcox准教授、ハワイ大学のJudy Van Zile名誉教授ともワークショップを重ねる予定であり、その成果を論文集としてまとめたい。
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