最終年度である平成30年度では,まず前4-3世紀のエウヘメロスの無神論の内実の検討を実施した。ピロデモスの資料に見られるソフィストのプロディコス(エウヘメロスの無神論は一般に彼の影響を受けているとされている)の無神論的な宗教起源説ではいわゆる二段階説が採られており,つまり,原始の人々が天体や山河を初めとする自然界の諸物をまさにその有益性ゆえに神格化する段階と,人を養い育てる有益なものを発明・発見した人々を神と見なす段階である。セクストスは,エウヘメロスの「神論」について後者の段階に相当することを強調する。その場合,神々とは,単に人間に過ぎないとしてその神性を拒絶する無神論ということになる。要するに,神々は人間の案出したものに過ぎないとする見解である。しかし,エウヘメロスの「神論」において天空の神々等の存在が言及されるとき,その神論が神的存在の完全な否定ではなく,むしろアニミズム的な面を保存しているとも言える(cf. Roubekas)。この二面性を整合的に説明すること(資料上の制限から極めて困難だが)がエウヘメロスの神論の理解の核心となる。また,エウヘメロスの神論に加えて,ソフィストの無神論を批判したプラトンの神論の理解の一環として,『ソピステス』における「本当の意味での実在」(これをプラトンにとっての神と同定する研究者もいる)に関わる議論も考察した。 その上で,「神の自然化」という名目の元で初期ギリシア哲学者の神論を一括することが彼らの内実豊かな「神論」の実相を覆い隠すことになることを確認した。
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