研究課題/領域番号 |
15K02078
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
王寺 賢太 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (90402809)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ディドロ / 政治思想 / ロシア論 / モンテスキュー / フィジオクラット / ベッカリーア / 『両インド史』 / レナル |
研究実績の概要 |
本2016年度は当初の計画通り、1770年代のディドロのロシア論(文明化論)を中心に研究を進めた。とりわけ『訓令についての考察』を、エカチェリーナの『訓令』との関係を中心に、後者が典拠としたモンテスキュー『法の精神』とベッカリーア『犯罪と刑罰』、また前者が参照したルトローヌ『訓令の精神』および同時代のフィジオクラシーの政治経済学との間テクスト的関係において把握することに努めた。その結果、とりわけベッカリーアやフィジオクラットの自然権思想に対して、長期の歴史変動の規定性とその都度の特異な政治状況・政治的行為の要請を分節しながら、その双方の交錯を思考するディドロの政治的思考の特質を見極めることができた。 また、7~9月と12月のフランスでの資料調査では、パリ国立古文書館、外務省古文書館、国立図書館とエクス・アン・プロヴァンス海外古文書館で、ディドロ/レナル『両インド史』関係の外交・植民地関係の資料調査を行い、とくに18世紀の植民地論における「文明化」と「所有権」の関係を精査した。さらに9月にはフランス・ヴァール県タラドーで、ピサ大学ジャンルイジ・ゴッジ名誉教授(本研究海外研究協力者)と『両インド史』第四版のための貴重な手稿資料の調査を行った。その結果、当該資料は、おそらく一七八〇年代初頭に、レナルが『両インド史』第三版改稿のための記した原稿の断片を集積してなっていること、その際レナルがディドロの寄稿を改稿せずにそのまま保存していることが明らかに出来た。 ほかに『両インド史』批評校訂版協同編集長として、近刊予定の第二巻の修正・校正に携わった。また、18世紀初頭のプロテスタント思想家ピエール・ベールについての論文を発表し、後期ディドロの政治思想についての論文と、レナルにおける公論概念の変遷についての仏語論文を執筆した(2017年度中に刊行予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度に予定していたフランス・タラドーでの資料調査を所有者の都合により本年度に回さざるを得なかったため、本年度予定していたロシア・ペテルブルグでの手稿資料の調査を実現することは出来なかった。したがって、ルトローヌ『訓令の精神』を筆頭とする調査対象の資料に関しては、先行研究に見られる部分的な復刻を参照するにとどまっている。そのため、進捗状況としては、「やや遅れている」と判断した。 ただし、この資料調査の遅れにもかかわらず、ディドロのロシア関係の著作に関してはあたう限りの関連文献にあたり、精査に務めることができた。また、タラドーでの資料調査に前後して行ったフランス各地の古文書館での植民地関係の資料調査では、七〇年代のディドロの主要関心事である植民地論・商業論にかんする資料を収集し、知見を広げることができた。今年度はとくにディドロ関係の研究論文を発表することはできなかったが、日本語で発表したベール論は、前年度のフランス南西部での資料調査の副産物である。またディドロ、レナルにかんしても二つの論文が刊行予定であり、共同編集長を務める『両インド史』批評校訂版の続巻も刊行が待たれているため、実質的な研究の進捗状況に大きな問題はないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
来たる2017年度には、当初の予定通り、とりわけディドロの政治思想と唯物論哲学の関係を究明するにあたって鍵を握るテクストと研究代表者が位置づけている、七〇年代の哲学的著作、とりわけ『エルヴェシウス『人間論』論駁』や『ヘムステルホイス『人間とその関係についての書簡』についての考察』を中心に、後期ディドロの唯物論哲学、唯物論的人間学と道徳論・政治論の関係を中心に検討してゆきたい。その際、自然史的(自然的=歴史的)な次元での規定性と、政治的・道徳的な主体が行為するにあたっての現実的な可能性の条件の関わりをどう理解するかが主要な課題となるはずである。また、とりわけエルヴェシウスとの対決からは、二人の唯物論哲学者における哲学の実践のあり方、政治への介入にかかわる根本的な立場の相違も読み取れると考えている。この点、エルヴェシウスの「啓蒙専制主義」と、ディドロの「啓蒙専制主義」に対する批判とも重なり合う論点である。 研究遂行にあたっては、ディドロとその直接の論敵(エルヴェシウス、ヘムステルホイス)のみならず、双方の論者が参照する同時代の文献、とくにモンテスキュー、フィジオクラット、ルソー、ドルバックなどとの関連も踏まえることとする。本年度の研究そのものは、特に外国での史料調査を要するものではないが、来年度(最終年度)の七〇年代末から八〇年代にかけてのディドロ政治思想の研究を先回りするかたちで、アメリカでの『両インド史』関係の資料調査は本年度中に実現しておきたい。ロシアでの資料調査に関しては、海外研究協力者であるセルゲイ・カルプ モスクワ世界史研究アカデミー教授とも連携しながら、本年ドないし来年度中に実現を図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度と第二年度のあいだで、海外での資料調査の計画を変更したため差額が生じ、年度末までに前年度分の予算を使い切るには至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越された金額は少額であるため、本研究年度の研究遂行の際に補助的に用いる。
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