研究課題/領域番号 |
15K02082
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
西山 雄二 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (30466817)
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研究分担者 |
渡名喜 庸哲 慶應義塾大学, 商学部, 講師 (40633540)
田口 卓臣 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (60515881)
佐藤 吉幸 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (90420075)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カタストロフィ / リスク / 災厄 |
研究実績の概要 |
今年度は互いに適宜意見交換をおこないつつ、個々人が実りある成果を上げた。西山は、責任編集を務める雑誌Rue Descartes(2016年春号)での特集号「(福島のカタストロフィの後で)日本を思考する」の準備をおこなった。西谷修氏へのインタヴュー記事を製作し、計8本の論考をとりまとめた。自らも論考「Imaginer la terre abandonnee, preter l'oreille aux disparus apres Fukushima」を寄稿した。佐藤・田口は共著で『脱原発の哲学』を刊行し、科学、技術、政治、経済、文学、歴史、環境といったさまざまな角度から、原発と核エネルギーの諸問題を哲学的に論じ切った。結論では、ヨナス、アンダース、デリダらの思想を援用しつつ、脱原発と脱被爆への切迫性を説き、日本の来たるべき民主主義への方途を描き出した。田口は、「栃木県北被災者による証言集完成・栃木県内での甲状腺検査受検者アンケート結果報告会」を開催し、住民に放射線の心配や影響を聞き取りした証言について報告した。渡名喜庸哲は、『カタストロフからの哲学』を刊行し、現代フランスの思想家ジャン=ピエール・デュピュイの哲学をめぐって、現代文明の破綻を自覚した上で、知と行為のループをいかに再考すればいいのか、を問うた。また、ヴォルテール『カンディード』新訳に際して、論考「リスボン大震災に寄せる詩」から『カンディード』へ」を執筆し、カタストロフィ表象の論点をアクチャルな視点で読み解いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は個々人が研究に専念し、充実した研究成果を上げた。佐藤・田口による共著『脱原発の哲学』(人文書院)は、日本では類例のない、人文学のカタストロフィ研究の記念碑的成果である。その反響は大きく、『週刊読書人』(2016年3月11日号)では、特集「脱原発の「切迫性」をめぐって」が組まれた。また、東京日仏会館にて、シンポジウム「フクシマ以後と例外状態 社会、政治、ポエジー」も開催された(2016年4月9日)。渡名喜による『カタストロフからの哲学』は、3.11以後、もっとも重要な思想家となったジャン=ピエール・デュピュイの哲学を余すところなく考察する良書である。国際的な活動も活発で、西山はフランス・ストラスブール大学での国際会議「変異」において、ジャン=リュック・ナンシーのヘーゲル論を彼のフクシマ論と結びつけて発表するなど、計3回の国際会議に参加した。初年度から一定の研究成果を上げることができ、次年度への飛躍に向けて着実な研究体制が整ったと言える。ただ、個々人の研究活動の活発化により、海外研究者の招聘企画は実現しなかった。次年度以降、リスク論研究で知られるフランス人研究者Frederick Lemarchandを招聘する計画を進めるつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画通り、これまでの人文学におけるカタストロフィ研究の進捗および布置を主に英語・仏語・独語文献を通じて調査し、批判的な考察を加える。主に参照されるのは、①思想(哲学、倫理学、科学哲学、社会思想史)、②表象(文学、表象文化論、メディア研究)の分野である。 カタストロフィの表象に際して、文学や絵画、映像はきわめて大きな役割を果たしてきた。18世紀の啓蒙期を境に破局の宗教的解釈が後退するにつれて、風景画が成熟する中で自然災害を描写する芸術表象が進展した(ターナー、ジェリコーの難破船)。想像を越える破局の表象は文学的主題となり、SF小説だけでなく、自然と人間の秩序の崩壊と回復を考える優れた作品が刊行されてきた(クライスト『チリの大地震』、カミュ『ペスト』)。さらに写真やテレビは破局を記録し報道する役割を果たし、映画がスペクタル的な破局表象を加速させた。 佐藤/田口による共著『脱原発の哲学』をめぐる討論会を数回開催し、研究者だけでなく一般市民をも交えた討論や意見交換をおこなうことで、本書での共同研究をさらに発展させる。研究の成果として、西山の責任編集によって、雑誌Rue Descartes(2016年春号)での特集号「(福島のカタストロフィの後で)日本を思考する」を刊行する。特集号には、西山と渡名喜の論考を含めて、日本、フランス、アメリカ、ベルギーの研究者らが、東日本大震災以後のカタストロフィの表象や思想に関する論考を寄稿している。
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次年度使用額が生じた理由 |
英文による論文校正の時期が2016年度にずれこんだため、予算を次年度に繰り越すことにしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
代表者・西山の英語論文のネイティブ校正の費用として使用する。
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