研究課題/領域番号 |
15K02083
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
松本 郁代 横浜市立大学, 都市社会文化研究科, 准教授 (60449535)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 即位儀礼 / 秘説 / 相伝 / 伝授 / 正統性 |
研究実績の概要 |
即位儀礼や芸能伝承・和歌灌頂に関する秘説や夢想に関する議論を行った。特に、寺家や摂関家が伝持した儀礼や儀式に関する秘説については、以下の二点を明らかにした。 第一に、秘説は、公の前提として共有されている場合が多いことである。宗教史料(聖教類)のみならず、公家社会における有職故実書や和歌注釈書などを含め、口伝や記録によって相伝されてきた内容を検討した結果、独占的な相伝を自称するものが多いが、その多くは他の家の説と共通したり、共有されているものである。直接的な人間関係がない場合でも、テキストの書写を通じ、説の交流が認められる。そのため、「秘説」と形容される場合であっても、それは「公の秘説」と理解されるものが多い点を明らかにした。 第二に、「公の秘説」が成立する場合正統性が複数生じる点。これは何故、公とされても「秘説」という形式を必要とするのか、という観点からの分析に基づく。通常、秘説は自説の正統性に対する戦略として用いられたが、その結果、どの家でも秘説を主張すれば、どれも正統性の根拠となる。現在からすればそれは正統ではなく、単なる自説あるいは自己主張に過ぎないものとなる。しかし、それを身分や立場の競合関係によって否定し合うことなく、複数の正統性として互いに維持されていた点を導き出した。 ただ何に対する正統性か、という点は要考察である。たとえば、家の正統性、天皇に対する正統性、王権護持の正統性など、正統性を必要とする場面がいくつも存在し、自らの家や系譜や法流が独占的な意味をもつ。また、一度、何らかの競合関係が政治的な相論に発展した場合、結局は、どれかの正統性を天皇や院など上位者が決定する、という構造を持っている点が明らかになった。特に摂関家においては故実の相伝と実際の勤仕をめぐり相論が起き、その決着を天皇や院が示す場合が多かった。寺家については引き続き考察を行う必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題に対する具体的な見通しが立っているため。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたるため、総体的な考察を行いたい。秘説という意味深い叙述形式や、夢想という極めて経験的で不確実なものに対し「正統性」というものが表現された、その表現様式はどのような意味を持っていたのか。またこれらによって構成された即位儀礼に関して、研究成果を取り入れた論述を中心に行っていきたい。 そして、改めて、当時の人々が抱いた秘説や夢想とは何であったのか、正統性という権力とのせめぎあいのみならず、中世における人々の心性のあり方を含め、文化史的な考察を深めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
中国社会科学院日本研究所と東北師範大学日本研究所における研究のため旅費を計上していたが相手方から招待があり、両機関に所属の研究者とも現地において研究に関する議論ができたため、旅費分・謝金に残余が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、上記研究機関の研究者らと日本で史料調査を兼ねて研究会を開きたいため、相手方と相談の上、研究者招聘の旅費などに使用したいと考えている。
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