本研究では、天皇の即位灌頂に関する秘説や夢想に記述された、「天皇」や「神仏」の存在意義やその記述形式にみる中世の文化体系について分析した。記述に表わされた「天皇」や「神仏」は、灌頂儀礼をつうじた文化の相伝系譜に独占的な権力や権威を構築し、神話や密教に基づく世界観や場所性に関わる記述形式をもちながら、文化を相伝する系譜の起源や由来の正統性を表現する主体者として機能していた点を明らかにした。 中世文化の根幹には、秘説をつうじた文化相伝にみられるように、古典や血統を重んじる権威主義、秘密主義的な思想と、交換や贈与を容易にする現物・現実主義的な物質文化的な態度とが併存していたと結論づけた。
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