本研究は、摂関期・院政期における文人貴族と僧侶の思想を、菅原文時(899~981)と永観(1033~1111)を起点に、周縁の人物や作品についての研究を推進することを目的とする。両者の直接関係はないが、菅原文時は、菅原道真の孫で、慶滋保胤・大江匡衡らの師であった。永観は東大寺僧で、浄土思想に傾倒し『往生拾因』『往生講式』などの著作がある。本研究では、これらに加え、永観が参照した天台本覚思想文献の『心性罪福因縁集』の思想内容と註釈についての研究を実施する。 平成30年度は、以下の事業を実施した。(1)菅原文時門下と永観作品への訳註作成:『本朝文粋』所載の菅原文時作品、及び前回科研費で積み残した慶滋保胤・大江匡衡・紀斉名らの詩序・願文の、詳細な訳註作成を継続して行った。永観『往生拾因』と『心性罪福因縁集』は、大学院生とともに出典調査・訳註を行った。(2)論文・文献目録の作成:3本を執筆し、うち2本はすでに公刊されている。「呉越・宋・高麗への返書・返牒と自讃―大江家伝来の外交文書と対外意識―」は、2019年6月に公刊予定。(3)研究成果の発表・講演:国内3回、海外17回の学会・シンポジウム・講演会で、研究成果の発表・招待講演・基調講演などを行った。(4)実地調査・写本調査:福岡県太宰府天満宮・沖縄県立図書館、中国北京市人民大学・四川省洪雅県とその周辺で、寺廟・神社の実地調査や写本調査を行い、学会でコメンテーターとして発言した。(5)本科研課題の集大成として、2018年12月8~9日、早稲田大学小野記念講堂・文学学術院第一会議室において、国際シンポジウム「東アジア文化交流―呉越・高麗と平安文化―」を主宰した。
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