研究課題/領域番号 |
15K02090
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研究機関 | 大阪商業大学 |
研究代表者 |
長妻 三佐雄 大阪商業大学, 総合経営学部, 教授 (80399047)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 公共空間 / 深田康算 / 京都学派 / 感情移入 |
研究実績の概要 |
京都における公共空間の問題を美学者である深田康算の全集を中心に検討した。深田の教え子たちが深田全集を編み、そこに集った人々のなかから雑誌『美・批評』が生まれた。多くの若い研究者を魅了した深田美学について本年度は研究した。とくに、注目したのが「感情」についての深田の論考である。深田は繰り返し「感情移入」美学を論じている。たとえば、「感情移入美学に就て」、「感情と心理の美学」、「リップス教授の美学」、「感情移入美学に対する一つの批評」、「感情移入説非難概括」などである。深田は、なぜ「感情移入」にこだわったのであろうか。「感情移入説」の重要性を認識すると同時に、その問題点にも目を向けていた。深田が指摘した課題が後進の美学者たちに引き継がれているように思われる。たとえば、「模倣」に注目しつつも、「創造」の意義を見失わなかった深田に対して、中井は「機能」を重視することによって、新たな「模倣」の意味を見出した。「感情移入」に関しても、二人の共通点、相違点から中井が「感情移入」を尊重しながらも、批判し、新たな秩序を模索する様子をうかがうことができるだろう。本研究で深田の論考を検討して、その緻密な論理と高い学術性を改めて知ることができた。深田のような緻密な論理を理解することのできる読者が1920年代の日本に存在したこと、その知的な水準の高さが公共空間を形成するうえで重要な役割を果たしたことが理解できた。哲学や美学の領域で培われた幅広い古典に対する理解と論理的な思考力が相互交流するためにも重要であり、次年度も深田のアカデミックな研究の意義を分析するとともに、他の京都学派の人々、後進の研究者たちについても検討していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
雑誌『美・批評』の同人たちが、深田康算の教え子が中心であったことから、深田美学について研究をはじめた。当初予想していたよりも難解であり、その緻密な議論は非常に重要であると考え、予定よりも時間をとり、深田の思想について検討した。
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今後の研究の推進方策 |
深田の研究とともに、京都学派とその周辺の知識人の思想を検討していきたい。戦後の言論がいかに戦前の思考方法や論理に依拠しているのかを深田全集を検討することによって認識した。今後、当初の研究課題のように、深田の教え子の言説を検討するとともに、 戦後も長く哲学的な営為を続けた西谷啓治や下村寅太郎の哲学も同時に研究対象にしていきたい。いかに京都学派の哲学が公共空間を支える論理や思考を形成してきたのかを考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
・京都学派に関する文献を次年度にまわした。
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次年度使用額の使用計画 |
年度初目に昨年度購入する予定であった文献を購入する。
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