研究課題/領域番号 |
15K02094
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
米田 真理子 神戸学院大学, 法学部, 准教授 (00423210)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 栄西 / 禅宗形成史 / 喫茶養生記 |
研究実績の概要 |
前年度に立てた研究計画に沿って、研究を実施した。 まず、栄西門流の形成過程について考察した。本研究課題において、これまで実施してきた文献および実地調査をもとに、栄西の九州での活動を総括し、禅宗史の再考を目的に、研究発表を行った。先行研究では史料的な限界を理由に注目されてこなかった栄西の初期の活動を、新発見の栄西の著作を手がかりに、考察した。特に九州時代の弟子の動向に着目し、日本天台宗における禅の伝統を復興・継承しようとした栄西の意志が、その後、円爾らへ受け継がれたことを指摘した。そのことは、『渓嵐拾葉集』に、最澄以来の禅受容の系譜として書き留められており、鎌倉中後期の歴史認識としては、それが実態に即したものであったと結論した。栄西の実像と禅の始祖とする評価の乖離を、禅宗史の観点から明らかにしたこの結論は、本研究課題の目的である、栄西の思想体系と後代の評価の解明に対する結論ともなった。 次に、身体論から見た『喫茶養生記』の同時代の影響に関する考察は、栄西による菩提樹の将来の事跡から説き起こし、『喫茶養生記』との関係を分析した。具体的には、『喫茶養生記』下巻に取りあげる「桑」の功能と、仏の悟りを象徴する「菩提樹」の類似点に着目し、人に及ぼす身体的・精神的影響を考察した。『喫茶養生記』は栄西の最晩年の著作であり、同時代にどのように読まれたかは明確ではないが、栄西が将来した菩提樹は、京都や南都での同時代の受容が認められた。また、『喫茶養生記』は、上巻の茶に関する記事は従来注目されてきたが、下巻の研究蓄積は多くなかった。本研究により、『喫茶養生記』の全体像は明確になり、菩提樹の中国・日本での受容の在り方も浮き彫りになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は順調に進展している。だたし、最終年に予定していた全体的な考察を、その前年である2018年度に実施したため、計画していた調査などの順序に変更が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究結果をふまえて、次の(1)~(3)の各論を進めつつ、研究全体の総括をする。 (1)鎌倉後期の栄西像の形成を明確にする。具体的には、茶祖像の形成の問題に取り組む。「栄西が日本に初めて茶をもたらした」という通説は、どのように生じたかを明らかにする。この課題には長年取り組んできたが、茶祖像は、栄西の禅始祖像とも結びつくものであるため、喫茶の問題だけでは解明できなかった。そこで、2018年度に行った禅宗形成史再考の結論を用いて、改めて位置付け直すことにした。なお、研究計画の変更として、栄西の菩提樹の将来に関しても、研究を深めることにした。これは、2018年度の『喫茶養生記』の研究で新たに得た課題である。従来、日本へは、中国の菩提樹が将来されたとみなされてきた。そのことに間違いはないが、中国においても印度菩提樹の生育が確認され、本研究課題の研究対象である栄西の入宋の問題に波及することから、関係の調査を実施することとした。さらに、茶の将来を前提とする茶祖像に、菩提樹の将来がどのように関わるかを検証する。 (2)2018年度の研究において、栄西門流の鎌倉期を通しての形成過程を考察したが、それを踏まえて、門流のその後の展開を追う。九州の各地に栄西と弟子に関わる伝説が伝えられており、栄西に対する後代の評価の多様性が認められることから、その調査を実施する。 (3)栄西の思想に対する総合的な観点から、禅以外の特には戒律についての調査を進める。これは、栄西が、禅の受容を通して復興しようとした叡山の伝統と関係する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)中世禅籍叢刊全12巻が、2018年3月に完結したことを受け、同年7月に完成を記念した研究会が開催された。本研究課題の総まとめとして、2019年度に実施する予定であった禅宗形成史再考の内容を組み込んだ発表を行ったため、当初計画していた調査などの予定が、前後することになった。 (使用計画)前年度に行う予定であった調査を今年度実施する。ただし前年度の研究結果に基づき、調査内容には若干の変更が伴う。
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