前年度に立てた計画(1)~(3)に沿って研究を行った。 (1)中世における茶祖像の形成過程を解明するため、伝承を書きとめた最古の文献である『明恵上人伝記』の記事を分析し、茶の飲み方の変化と茶生産の実状を背景に、当初は明恵が茶祖とみなされていたことを指摘し、そのことで生じる矛盾を解消するために、後に、栄西が茶祖に据えられたことを明らかにした。明恵を日本の茶祖とみなす説に対しては、南北朝期以来、否定的な見解が繰り返し登場した。しかし、説の根本的な分析がなされないまま現代に到り、結果、栄西と明恵の活動時期を画期とみなす喫茶史が描かれつづけたと結論した。さらに、茶の将来ルートと類似する、栄西の菩提樹の将来に関する研究に取り組んだ。栄西は二度目の入宋中に天台山の菩提樹を日本に送り、その菩提樹の栄枯に、栄西自身による比叡山の仏法中興と、焼き討ちに遭った東大寺の再建の成否が託されていたことと、日本に植えられた菩提樹が同時代の人たちに実際に受容されたことを明確にした。 (2)2018年度に、九州における栄西門流の展開をふまえて鎌倉期の禅受容の実態を解明する研究発表を行い、2019年度に、それを論文として公表し、本研究課題の総括とした。さらに考察結果を発展させるべく、まず、九州での伝承の多様性に関して、栄西の孫弟子である栄尊の活動に着目し、活動実態と伝承の関係性を探り、一方、栄西門流の関東への広がりについては、弟子の栄朝の活動と伝承について調査した。 (3)(2)の研究をふまえ、栄西の思想に対する総合的な観点から、栄西と戒律の問題を、『興禅護国論』に基づき、道元に至る系譜を軸に、分析した。
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