研究課題/領域番号 |
15K02096
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
石澤 靖典 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (20333768)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フィレンツェ美術 / 美術家列伝 / ヴァザーリ / アントニオ・ビッリの書 / アノニモ・ガッディアーノ稿本 / アルベルティ―ニ |
研究実績の概要 |
1.「アントニオ・ビッリの書」の翻訳を一通り完成させ、現在、註解を作成中である。もともとこの文書は、内容が一部重複する二編の手稿本(Codice petreiおよびCodice strozziano)により伝えられているが、これらはいずれも現存しないオリジナルテキストの不完全な謄本であるため、それぞれに含まれる情報や構成には多くの異同が見られる。それらのテキスト間の相違を比較し、誤記や改編の跡を検証する作業を進めるとともに、言及された作品の特定と研究史をまとめる作業に取り組んでいる。最終的にこれらの成果とテキストの成立過程にまつわる解題を付して公表する予定である。 2.「アノニモ・ガディアーノ稿本」の翻訳作業を進めているが、まだ完成には至っていない。28年度におこなった現地調査をもとに、作品の同定と註解を付す作業を同時並行でおこなっている。 3.フランチェスコ・アルベルティ―ニ『覚書』に関し、すでに公表した翻訳テキストに対する附論として、中世の巡礼案内記である『ローマの驚異』や同じアルベルティ―ニによる『古今のローマの驚異(Opusculum de Mirabilibus novae et veteris urbis Romae)』などとの関係性を考察する論考を準備している。また、この文書に記載された絵画、彫刻について作品地図を作成する作業をおこなっている。 4.他の科学研究費補助金(基盤研究(B)「東北地方における写真文化の形成過程と視覚資料の調査研究」、課題番号16H0336402)の研究分担者として携わっている、明治時代の東北における写真文化の発展と都市表象に関する調査研究をフィードバックし、比較文化的視点から、都市の美術の特色を浮き彫りにする試みに取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.「アントニオ・ビッリの書」の研究に関しては、翻訳・註解までの作業は概ね順調に進んでいる。しかし、文書の成立過程やヴァザーリとの関連性についての文献学的な考証については、もともとこの文書が二編の不完全な謄本によってのみ伝えられているというやや特殊な状況下にあるため、説得力ある議論をおこなうための十分な材料をそろえることができなかった。 2.「アノニモ・ガディアーノ稿本」に関しては、対象となる作品の同定および現在の研究状況の確認に当初想定した以上の時間を要する結果となった。これらの課題を完結するには、再度現地調査をおこなう必要があるが、29年度はそのための十分な時間を確保することができなかったため、研究期間の延長申請をおこない、30年度にこの作業をおこなうこととした。 3.アルベルティ―ニ『覚書』については、すでに公刊した翻訳の註解に加筆修正を加え、新たな情報にもとづく補論を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
1.「アントニオ・ビッリの書」および「アノニモ・ガッディアーノ稿本」で言及された作品について再度、現地での調査をおこない、同定と来歴にかんする情報を集める。 2.上記の現地調査にもとづき、「アントニオ・ビッリの書」および「アノニモ・ガッディアーノ稿本」のテキストに関する考察をおこなう。とくにヴァザーリの『列伝』との比較などを通して、欠損したテキストの再構成や曖昧な文意を明確化する作業を進める。これらをもとに解題を完成させ、その成果を公表する。 3.ヴァザーリ以前の美術家列伝においてフィレンツェの美術がどのように称揚され、その地域様式としての特質が次第にカンパニリズモ(郷土至上主義)的な性格を強めるに至ったのかを考察する。 4.以上の研究内容を成果報告書として発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:海外調査を行う予定だったが、勤務先の用務の関係で日程の調整が難しく、年度内に実行することができなかった。そのため、補助事業期間の延長申請をおこない、海外調査一回分に割り当てていた予算と研究内容を公表するための費用を繰り越すこととした。
使用計画:昨年夏に行う予定だった海外調査を今年度の夏季におこなう。その費用に繰越金の6割を充て、残りを資料収集と研究発表のために使用する。
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