研究実績の概要 |
明治以降展開された、近世邦楽や民謡などの日本固有の音楽についての理論的考察では、特に陽音階(半音を含まない5音音階)の考察において非常な混乱が見られる。私は陽音階を第1陽音階(C,D,F,G,A)、第2陽音階(D,F,G,A,C)、第3陽音階(F,G,A,C,D)、第4陽音階(G,A,C,D,F)、第5陽音階(A,C,D,F,G)に分類した。様々な混乱のある中で、最も大きな問題は第2陽音階と第4陽音階をめぐるものである。小泉文夫と大塚拜子はこれら二つの陽音階を同一視し、前者は第4陽音階の存在を民謡研究の立場から、後者は第2陽音階の存在を近世邦楽研究の立場から、それぞれ否定した。 私の考えでは、この両者は民謡と近世邦楽の差異を看過している。近世邦楽に第2陽音階が適用できないという大塚の見解に私は同意するが、第4陽音階を第2陽音階と同一視するのは誤りであると考えている。この点について、私は東北民謡においてだけみられる、三味線の調弦と構成音のある関係に着目した。 いま仮に、三味線の調弦において1の糸をDとしよう。このとき、D,F,G,A,Cという構成音で組織される旋律は、近世邦楽においては本調子で演奏され、また民謡においても本調子で演奏されるが、東北地方においては、しばしば二上りで演奏される。そのような曲群は大塚の理論の成立しない例であり、またDの音に強い中心音としての性質がある(実際、ほとんどの場合Dで曲が終止する)のでこれらは第2陽音階とみなされる。またこの場合、しばしばAの音も核音となることがああり、これは核音の位置によって音階を分類する小泉の着想をさらに追求することにつながる。これらの事柄は2015年度東洋音楽学会大会において発表された。
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