研究課題/領域番号 |
15K02098
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
城島 亜子 (増野亜子) 東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (50747160)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イスラム / 芸能 / 伝統 / インドネシア / バリ島 / 音楽 |
研究実績の概要 |
昨年度はバリのムスリムの芸能の実践状況の調査と近隣諸島の芸能実践との比較考察を行うために三回の現地調査を行った(①H27年8月9日~8月14日、インドネシア、ジャワ州中部バニュマス地域;②H27年8月14日~8月30日、インドネシアバリ島各地;③H28年3月10日~3月14日、インドネシア、ヌサ・トウンガラ州、ロンボク島)。 バリ島カランガッサム県、クルンクン県、ジュンブラナ県、デンパサール市内、ヌガラ市内において芸能上演の記録とインタビューを行った。初年度は特に各地における男性群舞ルダットの上演実態を中心に調査した。調査から示唆されたのは、①バリ全域のムスリム集落に固有の表現様式が存在し、その独自性は集落の民族的起源や周囲の文化的環境等の差異に根差す、②100年以上の歴史を持つと考えられる古い芸能と、1960年代以降に近隣諸島から伝播したと思われる芸能が混在している、③いずれの芸能とイスラム信仰と結びついているが、宗教性・儀礼性の解釈については地域差がある、④武術と芸能の関わりの深さである。 中部ジャワではイスラム賛歌ショラワタン等10種の芸能、ヌサ・トウンガラ州ロンボクでは男性群舞ルダット等4種の芸能に関しても調査を行った。前者はムスリムが宗教的マジョリティであるジャワ島とマイノリティであるバリの比較考察、後者はロンボク系バリ・ムスリムの芸能の起源や伝播過程の考察のための調査資料となった。 これらの調査資料に合わせて文献研究を進め①近年のインドネシアのイスラム文化の全体的動向、②ロンボクとバリの歴史的関係、③イスラムの一般的芸能観といった研究の背景となる社会的文脈の理解を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地協力者の事情などの理由から、現地調査期間を計画よりも多少短縮したが、短期間で充実した調査資料が得られ、全体的に研究は順調に進んでいる。3週間を予定していたジャワの調査は、1週間を27年度に、2週間を来年度以降に振り分ける方針に変更し、H29年度に予定していたロンボク調査を一部繰り上げて実施した。また昨年度はムスリム芸能・武術・文化に関連する文献資料が数多く刊行され、調査資料と照合しつつ分析を進めた。 一方、西部バリにおける初年度の調査で、予想以上に多くの集落に芸能活動が存在する可能性が示唆され、継続的な調査の必要性が明らかになったため、バリ・ムスリム芸能の全体的な概観を把握し、地域間の相互比較を行うという当初の目標には到達せず、年度中には研究成果の発表には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の主要な研究課題は①西部バリにおける芸能実践の実態を明らかにする、②ロンボク島とバリ・ムスリムの芸能の表現形態や音楽観を相互比較し、歴史的な伝播過程を考察する、の2点である。昨年度の調査資料の分析、文献調査を続けながら、新たに8月と3月にそれぞれ数週間の現地調査を、インドネシア(バリ島とロンボク島)で行う予定である。なお当初28年度に予定していたスラウェシ島調査は延期し、ロンボク調査を優先する。 また今年度は日本文化人類学会(日本語、5月、名古屋)、国際伝統音楽学会(ICTM)「マイノリティと音楽」スタディ・グループ会議(英語、7月、仏・レンヌ)、ICTM「東南アジア芸能スタディ・グループ会議(英語、8月、マレーシア・ペナン)で計3回の口頭発表を予定しており、それぞれの機会に異分野・海外の研究者との情報交換を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)当年度はビデオカメラの新規購入を見送り、既に所有していた機材を使用したため、物品費が予定額を下回った。 (2)予定の調査期間を短縮したこと、特にジャワ島での滞在期間が短くなったことにより、旅費の支出が予定を下回った。 (3)現地研究協力者(芸能上演者)側の日程的な事情により、予定していた芸能上演とその記録(録画・録音)の一部を次回以降の調査時に延期したことにより、人件費が予定額に達しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
(1)物品費の差額は主に今年度の書籍購入に充当する。 (2)当初計画では、28年度の海外における国際学会での発表は1回の予定であったが、2回行うこととし、27年度の未使用旅費をこの予算に充当する。 (3)27年度に実施できなかった芸能上演と録画は、28年度の調査で実施する。
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