本研究は、日本の伝統音楽の転換期と言える1920年代から30年代に焦点を当て、新様式・新楽器の発表機会であった演奏会の分析を通して、1935年を頂点とする新しい潮流の実情を明らかにすることを目的としていた。 平成27年度および28年度においては、三曲という伝統音楽から発展した新日本音楽と呼ばれる新様式の音楽について、該当年代における演奏会を幅広く調査した。研究成果としては、朝鮮および樺太における新日本音楽について実態を明らかにした一方、調査の成果を資料集としてまとめた。その資料集とは、雑誌『三曲』に掲載された700点余りの演奏会プログラム及び約1万件に及ぶ彙報欄の演奏会情報を抜粋し、上下2冊本にまとめたものである。 この資料集に基づいて抽出・整理した、新様式・新楽器を用いた曲目、楽器、演奏者、演奏会場等のデータを用い、平成29年度は、数十の新楽器と既存の楽器との組み合わせ方等の用法について考察したが、その過程で、さまざまな西洋楽器が、伝統的な箏や三味線の合奏に付け加えて合奏されている事例が多いことが指摘できた。そこで、平成30年度は、主に西洋楽器を用いた新曲に着目して分析を行い、楽器の使われ方、響きの効果などに着目して考察を行った。平成30年度の成果発表としては、上記の分析・考察に基づき、国際学会で口頭発表を行った。内容は、戦前の三曲演奏会における西洋楽器の用法について明らかにしたものであった。また、4年間の研究の総括として報告書を作成した。 以上のように、本研究では、4年間の継続的な研究によって、当初の計画に加え新たな着眼点を得て考察を深めることができた。新しい時代において、新楽器だけでなく西洋楽器のような別のジャンルで使われていた既存の楽器も活用し、時代に沿った新しい響きを得ようと工夫されていたこととその意義について明らかにすることができた。
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