過去の音楽の鳴り響きを検証するための基礎資料の構築を視野に、20世紀序盤に本邦に存在した歴史的ピアノについて調査するプロジェクトの第4年度である。今年度は、当時のピアノの実物調査、および本研究を継承する科研費プロジェクト(「20世紀序盤の東アジアにおける東洋・西洋の共鳴:楽器の響きから考えるピアノ文化」、18H00623)で実施する実物調査の予備調査を行う一方、同様に当初研究計画書に基づいて、当時国内に存在したピアノの悉皆調査を継続し、データベース化の作業をすすめた。今年度の悉皆調査の主な対象は東京音楽学校が所蔵したピアノであり、当初から見込まれていた会計資料とその他の資料を照合することによって、研究計画段階よりも精密な所蔵ピアノのデータが集積されている。とりわけ同学校が所有したはずの多数の輸入・国産ピアノに関して、各地の官立の学校への払い下げ、あるいは第二次世界大戦中の消失が資料で跡づけられたことで、2017年の国際音楽学会東京大会における中間報告の時点で残されていた大きな疑問点が解消した。このほか、歴史的ピアノの所蔵調査に関する先行研究が進んでいる2県については、一部は現地研究者の協力を得ながら、かつて存在したとみられるピアノの調査が完了したと言える。このほか、直接的な成果にはまだ結び付いていないものの、本研究の認知が広まっていることで、歴史的ピアノに関する情報が寄せられることが多くなっている。当初射程に入っていなかったそうした楽器に関しては、本研究を継承する上記プロジェクトで調査を継続し、網羅的な資料の完成を目指してゆく。
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