研究課題/領域番号 |
15K02102
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
伊東 多佳子 富山大学, 芸術文化学部, 准教授 (00300111)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 環境芸術 / 環境美学 |
研究実績の概要 |
本研究は英米の環境芸術の実証研究に基づく新しい環境美学の構築の試みである。本研究で構築される自然環境美学は、西洋哲学の伝統において「自然」対「人工」(ないし「芸術」)の二項対立の図式で捉えられてきた3つの概念、「自然」、「人工」、「芸術」を定義しなおし、同時に「自然」、「人工」、「芸術」の3つの領域を自由に行き交う英米の環境芸術作品の美学的な分析を通して、これら概念の境界と相互浸透もしくは相互侵犯の自体を精査し明らかにしながら、環境倫理学や保全生態学の最新の知見も取り入れた現代の自然の現実と乖離することのない新たな自然概念を提示し、最終的には自然の美的/倫理的な考察方法として構築される。英国の環境芸術研究を中心に据えたまったくあらたな自然環境美学の構築をめざす本研究にとって、なによりも重要なのは自然環境を主題とする英国の環境芸術の美学的な分析である。そのため3年を通じて①実地野外調査を中心とした環境芸術の個別の実証研究と②環境美学と環境倫理学の理論研究という二本の柱に沿って実施される。初年度である平成27年度は、英国の環境芸術作品の実地野外調査を中心に計画を実施した。とりわけ、英国の5カ所を選んで彫刻を設置したにアントニー・ゴームリ―の《ランド》プロジェクトを中心に、デイヴィッド・ナッシュの《トネリコのドーム》およびアンディ・ゴールズワージーの《ストライディング・アーチズ》、《クローガ・パイク・チェンバーズ》、《ペンポント・ケアン》の調査を行った。あわせて、環境美学と環境倫理学の理論研究は専門書の精確な読解を通じて、とくに風景と環境について考察を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定されていた通り、今年度は英国の最新の環境芸術作品の実地野外調査を行うことができた。この実地野外調査は毎年行われるが、とりわけ環境芸術に表現された現代の自然環境を考察するためには、作品を取り巻く環境を含めて現地で体験・思索することが必須であり、それなしには十全な理解はありえない。予定されていたデイヴィッド・ナッシュとアンディ・ゴールズワージーの環境芸術作品に加え、注目すべきは2015年5月から2016年5月までの一年間のみ公開されるアントニー・ゴームリーによる一時的な環境芸術作品のインスタレーション《ランド》プロジェクトを調査することができたことである。これにより、あらたな風景芸術としての環境芸術の存在様態について、土地―風景―環境という変化のなかで捉える視点を獲得することができた。この野外実地調査によって収集された資料をもとに行った、自然環境との関わりに重点を置いた環境芸術の個別の実証研究は一定の進展をみることとなった。併せて行っている最新の環境美学、環境倫理学、環境哲学および保全生態学の文献の精読も着実に進めており、現代の自然観の考察を深める作業もおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
英国の環境芸術作品の野外実地調査によって収集された資料をもとに、自然環境との関わりに重点を置いた環境芸術の個別の実証研究を行う。併せてこれを理論的に支える環境美学の構築のために、最新の環境美学、環境倫理学、環境哲学および保全生態学の文献の精読と共に、ロマン主義とその周辺の自然観と、現代の自然観の考察を深める作業を行う。これにより、現代の自然環境から乖離することのない、普遍的でかつ具体性を失わない自然の美的/倫理的な考察方法が示されることになる。あらたな環境美学の構築のために、環境芸術の発生から展開までの歴史を概観する必要性を痛感しており、まず環境芸術を概観するための研究書をまとめることに取り組む。本年は環境芸術の発生からほぼ半世紀にいたる歴史を正確にたどるために、最初期のアメリカ合衆国の環境芸術作品の野外実地調査を行うことになっている。これにより十全な環境芸術に対する理解が可能になると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
派遣研究員として10ヶ月東京大学人文社会研究科美学藝術学研究室に出向していたため、科学研究費補助金の使用可能期間が富山大学に戻っていた派遣研究員中断時の2か月間に限定された。そのため、当初予定されていた図書や物品の支出が中断されている。また、計画段階よりも高性能で安価なデジタル・カメラが今年度中に発売されたために、予算よりも支出が抑えられたことも一つの原因となっている。今年度は、9月に行った英国での海外実地野外調査を優先的かつ中心に支出を行ったが、地理的に離れた場所で、物品請求などの事務手続きや処理が煩瑣で困難であったこともあったうえ、購入物品の移動も簡単ではなく、スムーズな使用が難しかったため予算通り支出することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、環境芸術作品の実証研究の過程で環境芸術に関する研究書をまとめるために必要不可欠であるアメリカ合衆国の環境芸術作品の海外実地野外調査を、当初より予定されていた英国の環境芸術作品の実地野外調査に加えて行う。6月に予定されている合衆国での実地野外調査の費用は繰り越し分を充当し、ほかは今年度の当初の予定通りに使用する計画である。
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