研究課題/領域番号 |
15K02102
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
伊東 多佳子 富山大学, 芸術文化学部, 准教授 (00300111)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 環境芸術 / 環境美学 |
研究実績の概要 |
研究の2年目にあたる平成28年度は、初年度の研究成果をふまえて、さらに英国の環境芸術に関わる理解を深め、その現状を認識するためにふたたび実地野外調査を行った。とりわけ、変貌する現代の自然環境を主題にすることで自然の歴史性と風景の物語性を表現しながら、自然、人工、芸術のあいだに位置する環境芸術作品の十全な分析のためには、環境芸術を取り巻く環境、すなわちその地域の特殊な事情の中で、いかに自然と人間の共生という理念を実現し、経年変化の中で、どのようにその役割を果たしてきたかについて、なによりも現地で環境そのものを含めて体験・思索する必要がある。そのため初年度同様に、9月に英国国内の環境芸術の調査を行った。実施箇所は、デイヴィッド・ナッシュ《トネリコのドーム》およびアンディ・ゴールズワージー《ストライディング・アーチズ》《ペンポント・ケアン》《タッチストーン・ノース》、ヨークシャー・スカルプチャー・パークである。また、環境芸術の実証研究の過程で環境芸術に関する研究書をまとめるために必要不可欠であるアメリカ合衆国の環境芸術作品の実地野外調査を、6月の夏至(理想的な状態での調査のため)の前後の期間に行った。実施箇所はマイケル・ハイザーの《ダブル・ネガティヴ》、ロバート・スミッソンの《スパイラル・ジェッティ》、ナンシー・ホルト《サン・トンネルズ》、ウォルター・デ・マリア《ライトニング・フィールド》である。これらの充実した実地野外調査にくわえて、環境美学と環境倫理学の理論研究を専門書の精確な読解を通じて行うことで、風景と環境についての考察をより深めることができた。また、前年度の成果の一部を「「ここではないどこか」ではない「いま、ここ」へーアントニー・ゴームリ-の《別の場所》と《ランド》プロジェクトをめぐってー」『GEIBUN011富山大学芸術文化学部紀要第11巻』82-92頁に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定された通り、今年度は英国の最新の環境芸術作品の実地野外調査を行うことができた。この実地野外調査は毎年行われるが、とりわけ環境芸術に表現された現代の自然環境を考察するためには、作品を取り巻く環境を含めて現地で体験・思索することが必須であり、それなしには十全な理解はあり得ない。予定されていたデイヴィッド・ナッシュとアンディ・ゴールズワージーの作品の調査に関しては充分な成果をあげたと思われる。それに加えて、環境芸術作品の実証研究の過程で環境芸術に関しうる研究をまとめるために必要不可欠であるアメリカ合衆国の1960年代後半から70年代前半にかけて西部の砂漠制作された主要な記念碑的環境芸術作品、マイケル・ハイザーの《ダブル・ネガティヴ》、ロバート・スミッソンの《スパイラル・ジェッティ》、ナンシー・ホルト《サン・トンネルズ》、ウォルター・デ・マリア《ライトニング・フィールド》の実地野外調査を行うことができた。とりわけ環境芸術の実証研究の過程で環境芸術に関する研究書をまとめる必要性を痛感していたが、これにより、環境芸術をその成り立ちから丁寧にたどることが可能になり、環境芸術研究のために、あらたな風景芸術としての環境芸術の存在様態に関するきわめて重要な視点を獲得できた。したがってこの一連の野外実地調査によって収集された資料をもとに行った、自然環境との関わりに重点を置いた環境芸術の個別の実証研究は一定の進展をみることとなった。併せて行っている最新の環境美学、環境倫理学、環境哲学および保全生態学の文献の精読も着実に進めており、現代の自然観の考察を深める作業もおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカ合衆国および英国の環境芸術作品の野外実地調査によって収集された資料をもとに、引き続き自然環境との関わりに重点を置いた環境芸術の個別の実証研究を行う。併せてこれを理論的に支える環境美学の構築のために、最新の環境美学、環境倫理学、環境哲学および保全生態学の文献の精読と共に、ロマン主義とその周辺の自然観と、現代の自然観の考察を深める作業を行う。また、自然の権利についての法制度からのアプローチも加えることで、環境芸術の倫理性の問題に関わる議論を理解し、これにより、現代の自然環境から乖離することのない、普遍的でかつ具体性を失わない自然の美的・倫理的な考察方法を示すことを目指す。あらたな環境美学の構築のために、環境芸術の発生から現在の展開にいたる歴史を概観する必要性を痛感しており、まず環境芸術を概観するための研究書をまとめることに取り組む。今年度は本研究の最終年度にあたるため、これまでの成果をまとめ、環境芸術にもとづくあらたな環境美学の構築に一定の成果を出したい。
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