研究課題/領域番号 |
15K02103
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小野 貴史 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (10362089)
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研究分担者 |
山本 亮介 東洋大学, 文学部, 教授 (00339649)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フィクション / 可能世界 / 語り手 / 代理話者 |
研究実績の概要 |
本研究は音楽が美学上《虚構(フィクション)》に位置するのか《現実(ノンフィクション)》に在るのか、という命題を文学領域と協同しつつ研究している。音楽・文学ともに作者は「現実の時間」軸上で“可能世界”を作出する。文学作品内では作者は架空の《語り手》を設定し、読者は《語り手》の語りを現実時間に聞く、という行為こそが読書であり受容するか否かの決め手となる。少なくとも可能世界における虚構の時間上で展開される語りは、それが一人称であっても作者本人とは乖離した可能世界における存在となる。この文学作品の成立構造を音楽の聴取構造に援用すると、音楽作品は楽譜を再現する《演奏者》という代入因子が介在することによって、虚構の時間が再び現実の時間へと引き戻される現象が起こる(文学作品は朗読者が不在でも作品そのものは成立する)。これが音楽=虚構という構造を棄却する概念の中心的働きとなっているという議論の中心点に到達することができた。28年度は上記の音楽/文学における虚構の在り方の乖離点について、マリー=ロール・ライアン『可能世界・人工知能・物語理論』をもとに音楽における《語り手》及び《代理話者》の関係性を詳細に分析した。 さらに、《代理話者》が実際の音楽作品でどのように機能するのか、という構造に着目し、実際の音楽作品を制作発表し、現実世界の《語り》と可能世界における《代理話者》=《演奏者》が音楽的時間で併存する実験的試みを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
音楽学と文学理論との協同により、音楽作品と文学作品における《虚構》=フィクションの成立要件の根本的相違点が受容サイドから見た《語り手》のポジションにある、と言う点に到達した。とりわけ音楽における《語り手》と《代理話者》はジャンルやリアライズされる形態によって可変的であり、極めて複雑な様相を呈している構造に着目することができた。
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今後の研究の推進方策 |
音楽及び文学の側面からフィクションとしての芸術の存在論を美学的に研究した結果、最終的課題として《代理話者》の位相が浮かび上がってきた。とりわけ音楽芸術における《代理話者》の位置づけは、作曲者が楽譜に“記譜”したものを「再現」する演奏者というスタンスと、作曲者自ら自作を演奏する(作曲者が代理話者として成立する)スタンスでどのように取り扱うのか、判定基準の策定が目標として挙げられた。さらにジャンルを超えて音楽という事象そのものを観察すると、ボーカロイド・ムーヴメント等《代理話者》までもがヴァーチャルで架空の存在である場合等、文学と比較して極めて複雑な様相を呈している。従って今後は音楽と文学における《代理話者》に焦点を絞り、ジャンルをまたいでライアンが提唱した代理話者の形態における「純理論的根拠によって存在が措定される無人格の語り手」の存在論を総合的に分析する。また、音楽作品に付随するマテリアルな要素も分析研究の課題として挙げられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は当初計画で見込んだ地方での学会及び研究会の開催が少なく、出張費に差額が生じたため若干の繰り越し金額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も学会及び研究会は首都圏で開催されることが決まっているが、代わりに取材すべき資料を既にリストアップ済であり、それら文献及び資料の購入によって平成29年度の請求額と合わせて使用する。従って研究期間内の全体的金額及び使用内容に大きな変化はない。
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