研究課題/領域番号 |
15K02104
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
野澤 暁子 (篠田暁子) 名古屋大学, 文学研究科, 研究員 (20340599)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 危機 / 音楽 / 復興 / バリ島 |
研究実績の概要 |
2年目にあたる今年度は、国立スラバヤ大学の外来研究員としてインドネシアに3カ月半程の研究滞在を行い、集中的に調査を行った。本研究テーマは今世紀よりバリ島において活発化している聖なる鉄琴「スロンディン」の再興現象であるが、今回上記の大学を拠点とした理由は、この音楽の歴史的由来が東ジャワにあるためである。したがって同大学の研究者からの協力とともに、バリ島の現地調査と並行して歴史資料の収集・分析を行うことができた。 調査活動の一方で初年度からの研究成果として、国際伝統音楽評議会(International Council for Traditional Music)の第4回東南アジア芸能研究グループの国際シンポジウム(於:マレーシア、ペナン島)で発表し、その論文‘Beyond the Value of Reproduction: The Imagined Revival of the Sacred Gamelan SELONDING in Bali, Indonesia’ が国際伝統音楽評議会の定期論文集(2017年3月)に掲載された。加えて記録調査の問題をテーマとした論文「プロセスとしての音楽知の映像化―インドネシア・バリ島の「スロンディン」撮影プロジェクトの実践から―」を『Heritex vol.2』(名古屋大学大学院文学研究科附属・人類文化遺産テクスト学研究センター編、現在印刷中)に寄稿した。 以上の内容から、今年度は調査・研究発表ともにバランスのとれた成果をおさめることができた。特に国立スラバヤ大学での研究滞在や国際学会での発表を通じ、インドネシアや他の国々からの研究者と交流を深めることができたのも、今年度の大きな成果の一つであると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「危機と音楽」という人間行動をめぐる普遍的な問いのもと、バリ島で進行中のスロンディン再興活動の特質を、スハルト政権崩壊後の民主化と社会再編で揺れ動く現代インドネシアの社会的文化的背景とともに考察するものである。 昨年度はバリ島での現地調査を集中的に行い、復興活動の担い手の背景や実施形態、地域的分布の調査、当事者へのインタビューといった内容が中心的であった。今年度はこの昨年度の研究で得た現地のリアリティをふまえた上で、本研究に普遍性と個別性の双方を視野に取り入れることを一つの新たな方針とした。そこでスロンディンの由来であると考えられる東ジャワを拠点にヒンドゥー・ジャワ時代における音楽文化の社会的意義をふくめた歴史的背景の調査を行う一方、バリ島での現地調査では前回とは別の層(知識層)におけるスロンディン復興活動についての聞き取りを行った。結果的にはこの視点の多角化が観察や思索を深める上で良い方向に働いたと判断している。また、今回テーマ設定した「危機と音楽」の関係が、根源的には社会や個人を存在論的にささえる歴史観ともつながりをもつのではないかと考えるに至った。これは今後の研究展開の上で、重要な進歩であると考えている。 ただし今年度は調査、学会発表、論文執筆を集中的に行うことができた一方で、当初設定した目的の一つである映像記録の方面に時間を割くことができなかった。これに関しては最終年度の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は「危機と音楽」をテーマとするため、今年度国際伝統音楽評議会(International Council for Traditional Music)に発表した研究では、スロンディン再興運動を、観光開発や社会の流動化への危惧を背景とするバリ島の民間における反グローバリズム的反動という文脈から基本的な解釈を試みた。しかし今年度は思索や観察に時間を費やすことができたため、今後はあまり短期的な結論構築や成果発信にとらわれず、より広い視野から発展性・普遍性をふくむ豊かな研究へ展開させたいと考えている。 その意味で、音楽学や文化人類学だけでなく、哲学や歴史学などを積極的に取り入れるのも、思考の土壌をつくるために重要な作業ではないかと考えている。 ただし目下の課題の一つとして、最も時間と労力のかかる映像記録活動が残されている。これに関しては今年度に現地バリ島の協力者と打ち合わせを行ったが、テーマと実施過程をさらに具体化する必要があるため、早いうちに見通しを立てたいと考えている。また、研究計画では後半の作業として別の地域における音楽復興現象との比較考察を計画しているため、さらに広範囲な情報収集と分析作業が必要になると考えている。 加えて平成29年度は「国際共同研究加速化基金」の研究活動も行う予定となっている。まさにこの連携的な研究が本研究の深度を加える上で大きな役割を果たすと思うが、その途上には大きな困難も予想される。以上を全て見据えた上で、最終年度として出来うる限りの努力を果たしたいと考えている。
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