今年度はこれまでの現地調査で蓄積した資料にもとづき、理論的解釈を行う作業が中心となった。なかでもJuniper Hills & Caroline Bithell監修「Music Revival」およびJonathan Ritter監修「Music in the Post-9/11 World」におさめられた世界各地の事例との比較から、本研究の対象であるバリ島の古楽スロンディンの復興現象を「危機と音楽」というマクロの視点から分析をおこなった。バリ島における当該の文化現象は地域的に拡大傾向にあるものの、一連の観察を経た上で最終的な焦点をバリ・ヒンドゥーの総本山ブサキ寺院における司祭者パンデ・ワヤン・トゥサン氏を中心としたスロンディン楽器復元と奉納儀礼への導入に絞り込むに至った。以上の分析成果を「Reassembling Musical Heritage: The Agency of Wayan Pande Tusan and Gamelan Selonding Culture in Bali」というテーマの論考にまとめ、国際研究大会へ発表応募した結果今年1月に採択となった(学会名:国際伝統音楽評議会/International Council for Traditional Music、開催地:マレーシア、開催期間:2018年7月16~20日)。ただし今年度バリ島の東部地域を対象に予定していた現地調査は、同地域にあるアグン山の噴火予測情報による影響で長らくの検討を余儀なくされた。最終的には2018年3月に資料収集と聞き取りを中心とした短期調査を行うとともに、現地の音楽学・歴史学の研究者と「リビング・ヘリテージ」という観点から本研究を含む文化復興現象の諸相について議論をおこなった。
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