研究課題/領域番号 |
15K02105
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
秋庭 史典 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (80252401)
|
研究分担者 |
鈴木 泰博 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (50292983)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 感覚言語 / 触覚 / 触質 / telescoreプロジェクト / 触譜 / ナチュラルコンピューティング(自然計算) / 計算美学 / 美容人工知能 |
研究実績の概要 |
28年度の研究は、次の2点であった。1) 諸感覚の変換を行っているアーティストへの聞き取り調査を行い、感覚の変換に関して重要なポイントが何かを明らかにする。また前年度から引き続き、歴史的に重要な記譜法について考察する。2) 前年度から引き続き、感覚言語の評価系構築に向けた研究を行う。この2点について、主として1) を秋庭が、2)を研究分担者の鈴木泰博名古屋大学准教授が担当し進めた。まず1)について。日本画家であり、「Telescore」プロジェクトの主催者である作家のiyamari氏にインタビューを行った。同プロジェクトは、触覚、視覚、聴覚、身体感覚を変換しながら行われるものであり、その主催者であるiyamari氏は、感覚変換のエキスパートとして取材にふさわしい対象であったためである。同時に、同プロジェクトの展示調査、さらに舞踊家石井則仁氏によるパフォーマンスの体験、さらに石井氏へのインタビューも行った。このインタビューに基づく考察、さらに触譜を用いた感覚変換との違いに関する考察は、報告書にまとめ、一部を秋庭のウェブサイトに公開している。さらに、触譜と歴史的に重要な記譜法との比較検討については、2016年6月に大韓民国ソウル国立大学で開催された国際美学会において口頭発表を行った。2) の感覚言語の評価系構築に向けた研究については、鈴木准教授が出版した「美容人工知能ーウェルビーイングのための計算美容術」(ISBN978-4-915905-81-0)にまとめられている。とりわけ、そこに記載された触質方程式、ならびに触質成分の再帰的定義が重要である。これにより、種々の触質を記述することができるようになった。これは、2016年11月9日に慶応義塾大学日吉キャンパスで開催された人工知能学会合同研究会(ナチュラルコンピューティング)で発表されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
そのように判断する理由は、研究実績の概要にも記したように、代表者、分担者がそれぞれの作業を着実に進展させているためである。まず、代表者は、感覚変換を行っている作家にインタビューし、それに基づく考察を行った。その際、対象となったアーティストは、当初予定していたアーティストとは異なっている。しかしそれは、当初予定者がすでに触譜に基づいた作品を発表しており、触譜のさらなる展開を考えるには、別の観点から感覚変換を試みているアーティストの活動と比較する方がよいと判断したためである。結果的に、異なるアーティストへのインタビューとその考察により、これまでの触譜の展開の正当性が逆照射されることとなった。この点で、当初予定より変更はあったが、順調に進展していると判断する。 また、研究分担者である鈴木准教授による感覚言語研究は、触譜からSENSONICならびに美容人工知能と呼ばれる、マスならびにパーソナライズドされたメディアの研究へと発展している。すなわち、多数の人に同じ効果的な触覚を提供する方法(マスメディアとしての感覚言語)、ならびに、いかに個別化された触覚を提供するか(パーソナライズドメディアとしての美容人工知能)、に問題が移行している。そのなかで、感覚言語の評価についても、一定の見識が蓄積されてきている。これらの点から、順調に進展していると判断する。こちらの研究についても、それを進めるなかで、当初予定されていた音楽という特定の物質に依存しない抽象的な作品ではなく、感覚言語の現実界への実装、そこでの物質性の考慮がより大きな課題となって現れてきている。この点に対応するために、(後述するように)最終年度の研究の推進方法に当初予定から多少の変更が生じているが、この変更は現在までの進捗状況の判断に影響するものではない。
|
今後の研究の推進方策 |
先に述べたように、音楽のように抽象度の高いものではなく、より具体的な素材と密接な関わりを有する、感覚言語の現実界への実装を考えることが、最終年度の最も大きな課題となっている。言い換えれば、「触覚素材」の問題が、最重要課題となっているのである。この点を踏まえ、研究分担者の鈴木泰博名古屋大学准教授は、Lining Yao 博士(カーネギーメロン大学, 4月より)を研究協力者として作業を進めることを予定している。Lining Yao 博士はMIT Media Lab.のTangible Media Groupの中核メンバーとして、「計算+素材+触覚デザイン」の研究に従事してきた。従来は「計算」については対象によってその都度考察してきたが、この計算する触覚素材に触譜の考え方を導入し、あらたにMaterial Score, すなわちM.S.を構築し、一般的かつ合理的なデザインを行うことができる環境の構築を目指す。2016年12月にMITにて研究打ち合わせを行い、そこでの議論をもとにM.S.の数学モデルの構築とプログラムのプロトタイプの試作を行っている。また、Dr. Deblina Sanker (MIT, Media lab.)を研究協力者として、触譜により生成された振動刺激の生理応答計測の共同研究を行う予定である。2017年度は触譜による触覚美学の研究を応用、発展させ触覚の美学を触覚素材デザインへと実装する研究を行う。 また、研究代表者である秋庭は、この作業を踏まえたうえで、再度、鈴木准教授が進める触覚素材デザイン研究が、触覚美学研究に対して有する意義を考察する。この作業を通じて、最終年度としてのまとめを行い、3年度分の研究の総括を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
少額の残額(95円)について、この金額で無理に何かを購入するよりも、次年度分と合わせて使用した方が、より効果的な使用ができると判断したためである。
|
次年度使用額の使用計画 |
少額であるため、最終年度の実質的な使用に関しては、何の問題もないと考えている。最終年度は、このようなことがないよう、さらに慎重な使用を行う。
|
備考 |
(1)には、秋庭の13.の「図書」にあげた報告書テキストの一部、「Telescoreプロジェクトを考える」「三つの異なる指示書間の比較を通した触譜の向上可能性とその実現について」を掲載し、公開している。
|