研究課題/領域番号 |
15K02106
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡田 暁生 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (70243136)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ジャズ / 第一次大戦 / ヨーロッパ / 受容史 |
研究実績の概要 |
2015年度に主として実施したのは、戦間期のドイツの音楽雑誌を中心としたジャズ受容(その表象)である。その際に明らかになったは、ジャズの流行(単なる流行音楽としてではなく、未来の芸術音楽の方向を指し示すものとしての)は深く、新即物主義の芸術運動と結びついていたという事実である。ヒンデミットやクシェネクの初期作品は、そのメカニックな運動性において熱狂的に迎えられ、また当時熱狂的に迎えられたエルンスト・クルトの音楽美学、とりわけ運動意思Bewegungswilleの概念とあいまって、「悪しき十九世紀ロマン派」の思弁性を打破するものと期待されていた。クシェネクのいわゆるジャズ・オペラ『ジョニーは演奏する』には、観念に耽溺するばかりで現実適応能力を書いた主人公の作曲家(そこには後期ロマン派的な音楽がつけられている)と、純粋な遊戯に熱狂できるジョニーという形で、こうしたジャズ表象が端的にあらわれている。2015年度の研究から明らかになったのは、ヨーロッパでは当初よりジャズは芸術として受容されたという事実である。ヒンデミットやストラヴィンスキーがそれに熱中したことは言うまでもないが、20世紀後半にもこうした独自のジャズ受容は大きな展開をみせる。20世紀前半においてジャズに熱中したのはいわゆる新古典主義の作曲家たちであり、新古典主義vs無調(十二音技法)という対立は、とりあえず20世紀後半においては後者の一方的勝利で終わったと考えられており、またそれとともにジャズ受容のアクチュアリティーも姿を消したと思われるかもしれない。だが前衛音楽が挫折する1970年代以後、とりわけミュンヘンに本拠地を置く録音会社ECMによって、ヨーロッパ・ジャズを中心にしながら、そこに従来のクラシック(現代音楽)と民族音楽を融合するような試みが始められ、今日に至るまで音楽史の趨勢をリードしたことは注目されてよい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初2015年度の主たる研究として挙げた、ベルリン国立図書館音楽資料部における調査においては、主としてBerliner Allgemeine Musikzeitungの記事の分析をほぼ終えた。また1928年に世界で初めてのジャズ科が設置されたことが知られるフランクフルト音楽院、とりわけジャズ科設立に尽力した当時の院長ベルンハルト・ゼクレスについても、いくつかの文献を入手することが出来た。ただし音楽院の図書館における、当時の教育プログラムなどの調査はまだ遂行できていない。よって(2)おおむね順調に推移している とする。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度はヨーロッパにおけるジャズ受容を、①戦間期における音楽雑誌の調査 ②ドイツにおける録音アルヒーフ(ベルリン)の調査 ③1970年代以後のヨーロッパの独自の展開 の点から分析する。とりわけ③においては、ECMの録音の系譜に焦点を当て、ポストモダンの文脈からヨーロッパのジャズ受容を考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた文献(シュールホフの楽譜ほか)が未納入だったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
年度が始まり次第すみやかに再注文し、できるだけ早く納入できるようにする。
|