研究課題/領域番号 |
15K02110
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡辺 浩司 大阪大学, 文学研究科, 助教 (50263182)
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研究分担者 |
伊達 立晶 同志社大学, 文学部, 教授 (30411052)
田之頭 一知 大阪芸術大学, 芸術学部, 准教授 (40278560)
石黒 義昭 大阪歯科大学, 歯学部, その他 (40522785)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 美学 / 弁論術 / レトリック / バウムガルテン / マイアー / コモン・センス / イマジネーション |
研究実績の概要 |
本研究課題は、古代ギリシア・ローマにおいて成立した弁論術が西洋近代に受け継がれて変容していく過程を、西洋古典学および美学・芸術学の2つの観点から、思想史ないし理論的に究明するものである。美学と弁論術との関係を、弁論術から美学への変容と捉えるか、弁論術が衰退していくにつれて美学が成立したと捉えるのか。こうした思想史的ないし理論的な過程の全体像を把握するために初年度は、弁論術と美学との関係をあらためて問い直し、問題点を整理した。研究代表者の渡辺浩司は、バウムガルテン『美学』の読解を通して、バウムガルテンの世界観や哲学と古代ギリシア・ローマ弁論術を支える理論との違いを追究した。また研究分担者の石黒義昭と研究協力者の井奥陽子との協力を得て、G. F. マイアー『あらゆる美しい学問の基礎』の翻訳を継続した。研究分担者の田之頭一知は、音楽学の観点から言葉とイメージの関係を追究した。研究分担者の伊達立晶は、18世紀イギリスの詩人であり思想家でもあるコウルリッジにおけるイマジネーション論に焦点をあて、イマジネーションから創造的イマジネーションへの変容を明らかにした。研究分担者の石黒義昭は、夏目漱石の『それから』と森田芳光監督の映画作品〈それから〉とを比較検討し、修辞(レトリック)と映像イメージの関係を具体的に解析した。以上のような各研究者の個別研究とは別に、各研究者の知見を共有すために研究会を2回開いた。1回目の研究会では、研究代表者の渡辺浩司による「美学と弁論術の交叉」と研究協力者の井奥陽子による「言語の力――ヴォルフ学派の論理学と美学」の2つの研究発表があり、バウムガルテンの美学とヴォルフ哲学との関係を議論した。2回目の研究会は、東京藝術大学教授の松尾大先生によるバウムガルテンにおけるコモン・センスについての発表で、バウムガルテン美学におけるコモン・センスの意味について討議した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者および研究分担者、研究協力者による個別の研究については、全体として見れば各人が論文や共著で実績を公開しるが、具体的には論文が2点、共著が1点、書評等が2点と点数としては少ないかもしれない。とくに音楽表現における弁論術と美学の関係や18世紀イギリスとドイツにおける修辞学の影響等一部に遅れが見られる。 とはいえ、東京藝術大学教授の松尾大先生による研究発表とその後の共同討議により、「コモン・センス」という一様には把握できない思想史上の考え方が整理され、「コモン・センス」とバウムガルテン美学との関係が明確になった。18世紀前半に「コモン・センス」をめぐる論争があり、バウムガルテンはその論争に巻き込まれることを嫌っていた観があるとの松尾大先生の指摘は、この科研の研究課題にとっては、重要な問題提起であり、かつ重要な研究指針となった。 さらに、研究代表者の渡辺浩司と研究分担者の石黒義昭と研究協力者の井奥陽子はG. F. マイアー『あらゆる美しい学問の基礎 綱要』を翻訳している最中で、その成果はまだ公表できる状態ではないが、本研究課題の3年間で公表できる目処がたちつつある。 以上のように本研究課題は、やや遅れているものの、当初の研究計画に従って研究を遂行しており、2年目の来年度は、音楽表現における弁論術(レトリック)と美学との関係、イギリス哲学やフランス哲学(デカルトからライプニッツ・ヴォルフ学派へといたる哲学史上の流れ)の中でバウムガルテン美学をどう位置づけるか等、あまり研究が進んでいるとはいいがたい領域もでも実質的な成果があがると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者の渡辺浩司は、古代ギリシア・ローマの弁論術と美学との2つの領域に関するテキスト、注釈書、研究書を収集するとともに、美学と弁論術のそれぞれの哲学的な基礎を調べ、両者の異同を明らかにする。とくにバウムガルテン美学は、その基礎にライプニッツ・ヴォルフ学派の論理学を基礎としているので、論理学と美学との関係を追究する。さらに研究協力者の井奥陽子の協力をえて、G. F. マイアーの『あらゆる美しい学問の基礎 綱要』を引き続き翻訳する。研究分担者は、各自それぞれの研究テーマに従って研究を続ける。田之頭一知は、音楽学とフランス美学との2つの観点から、美学と弁論術の関係を追究する。伊達立晶は、文芸学の観点から、イギリスとフランスにおけるイマジネーション論と創造論との関係を追究する。石黒義昭は、美学・芸術学の観点から、イギリス美学とドイツ美学の関係を追究する。 また研究組織以外から、18世紀美学の専門家を1名、18世紀ドイツ文化史の専門家を1名を講師として招へいし、研究会で発表していただくとともに、本研究課題の研究のあり方について助言をいただく予定である。その他にも研究組織の全員による共同討議を開催し、各人の知見を共有する。 さらに、当初の計画では、海外での資料調査ないし海外での研究発表は、3年の研究期間で1回を予定していたが、海外での資料調査および国際会議での研究発表を2回とする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究組織のうち1名が体調不良の理由で、充分な研究を遂行することができなかった。また1名が家族の面倒をいなければいけない状況に陥り、充分な研究を遂行することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究組織のうちの1名が本年度も体調不良、家族の面倒を見る必要が出てくると思われるが、当該研究分野については残りの3名がカバーして、研究を進めていく。 当初は3年間の研究期間のうち1回だけ、海外での資料調査・研究発表を予定していたが、海外での資料調査の必要も出て来たので、研究期間の残り2年間で、海外への資料調査・研究発表を2回として、資料調査と研究発表を充実させて研究を前進させていく予定である。 また研究組織以外から、研究の遅れている分野の専門家を招へいして研究会を開催し、遅れている分野の研究を補いたい。
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