本課題研究の目的は、近現代におけるチェコ芸術音楽の表象を「ナショナリズム」の視座から解明することにある。最終年度の主な研究成果は、1)2018年3月29日に東京大学(本郷キャンパス)で開催された「日本スラヴ学研究会大会」での招待講演「チェコ国民オペラの創造-B.スメタナの喜歌劇《売られた花嫁》にみる『チェコ性』のイメージ」をもとに、約3万字超の学会誌論文(招待論文)を『スラヴ学論集 Slavia Iaponica (第22号)』(シンポジウムI;印刷中)に寄稿したことにより、音楽とチェコ語表現の問題も含め、本課題研究を総括するに至ったといえる。本論文では、19世紀後半における「国民オペラ」の理念を紐解きながら、チェコ国民楽派の始祖 B.スメタナ(1824-84)が、「祝祭劇」という一つの「仮説」としての「チェコ国民オペラ」のありようを提示した点を論じるとともに、当時、彼自身が希求した「チェコ国民オペラ」の本質的条件を解明することができた。 また本研究期間全体を通して、民族主義の主要な様相である「英雄的なるもの」としての連作交響詩の分析とともに、他方で「素朴さ」のシンボルとしての田園生活を描写した《売られた花嫁》等にみる現実主義を表徴する(民族主義の)多彩な方向を通して、当時、危機に瀕したチェコ語を基軸に、「詩と音楽の統合」を強調しつつ、特に後者では「チェコ語デクラマツィオーン」という言葉と音の関係性から、音楽表象にみる「チェコ性」の問題を多面的に追求し、民族的アイデンティティ獲得に向けたスメタナの創作の道程を詳細に洞察することにより、本課題を集大成することができたと考える。 2)加えて本年度は、『東欧文化事典』の第4章 音楽:クラシック「A.ドヴォルジャーク」の項目を、「スラヴ時代への道程」「作曲家としての名声と栄光」「不当な評価と擁護論」という観点から執筆した。
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