研究課題/領域番号 |
15K02114
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
山本 宏子 岡山大学, 教育学研究科, 教授 (70362944)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ティンパニ / ターキッシュクレセント / 文化変容 / ドレスデン / プラハ / アウグスト強王 / オスマン軍楽隊 / 太鼓文化 |
研究実績の概要 |
前年2015年の調査で、ドイツのドレスデンで、アウグスト強王が収集したオスマン軍の鍋型太鼓と軍纛(とう)ターキッシュクレシェント(トルコの三日月)の存在を確認した。両者はオスマン軍では一対のものとして使われていた。ドレスデン調査の際、チロル地方にはイスラムの象徴であった三日月の意匠が「顔のある月」に変化したターキッシュクレシェントがあるという情報を得た。 そこで、2016年5月19日~5月29日にスイスで、変化したターキッシュクレシェントの調査をおこない、さらに、イスラム文化における月のデザインとの比較に資する資料として、「月に立つマリア」像と「顔のある月」の意匠の写真撮影をおこなった。また、筒形太鼓文化圏のどこまで鍋型太鼓が進出したかを明らかにするための資料を収集した。 このスイス調査を通して、ハプスブルグ王朝の旧都であるチェコのプラハに、オスマン軍からの戦利品と言われているターキッシュクレシェントがあるという情報を得た。 そこで、2016年8月23日~9月6日の調査では、プラハを調査地に加え「月に立つマリア像」「顔のある月」「ターキッシュクレシェント」「鍋型太鼓」の現物とその意匠の所在確認をおこなった。さらに、ドレスデンでの追加調査をおこなった。また、1741年にザクセン=ヴァイマル=アイゼナハ大公国に組み込まれたアイゼナハで調査をおこなった。ちなみに、アイゼナハは「ミンネジンガー(吟遊詩人)の歌合戦」「リヒャルト・ヴァーグナーのオペラ『タンホイザー』」「J.S.バッハ」と深い関わりがある都市である。フランクフルトの博物館でも、同様の調査をおこなった。 オスマン軍楽隊から影響を受けたというグルックの楽曲の分析も引き続きおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スイスのバーゼルでは、かなり変形したシェーレンバウムのコレクションがあった。三日月の向きが下向きになり、顔が付いたものもある。ハープや、鶏、百合の紋章などが飾りに使われている。スイスでは三日月あるいは顔の付いた三日月が、イスラムの象徴ではなく、「三日月に立つマリア像」に現れる。このマリア像は限られた時代に、ドイツ語圏の特定の地域でのみ作成されていた。三日月の象徴性を検討中である。 スイスの博物館ツンフトハウス・ツア・マイセンでは、オスマン兵士の磁器を確認した。磁器で作られた軍纛は、三日月付いたターキッシュクレシェントとは違い、ドレスデン城の博物館にオスマンからの戦利品として展示されている軍纛とよく似た意匠である。マイセンやドレスデンでは収蔵されていない、また図録にも掲載されていない、かなり残忍なポーズをとるオスマン兵士の磁器の存在、しかも制作年代が分かる磁器を確認できたことは、当時のドレスデン側のオスマンに対するイメージを探る資料になると考える。ドレスデンでは、1719年の皇太子フリードリヒ・アウグスト2世の婚礼祝典行事の図録を入手した。図版の詳細を確認中である。 プラハのチェコ音楽博物館で、ターキッシュクレシェントの存在を確認した。ただし、ヨーロッパでもっとも古いと言われているターキッシュクレシェントは、国立博物館が改修中のために、実見できなかった。また、17世紀の軍事用の小型の鍋型太鼓、18世紀の馬の背に載せて叩いた小型のティンパニ、19世紀のティンパニなどを確認した。初期の鍋型太鼓は小型で、皮を紐で結びつけている。それが時代と共にだんだんと大きくなり、調律のネジが付くようになる。オスマンの紐締め鍋型太鼓は、戦利品としてのターキッシュクレシェントと分布が重なっているといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
2015年、2016年に収集した資料・文献の分析を引き続き行う。 2017年度は、これまでに情報を得たターキッシュクレシェントと鍋型太鼓の分布の確認を行う。アウグスト強王と関わりが強いポーランドのクラクフのナショナルミュージアムの武器コレクションと楽器コレクションを確認する必要性が出てきて入る。
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