研究課題/領域番号 |
15K02120
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研究機関 | 東京音楽大学 |
研究代表者 |
藤田 茂 東京音楽大学, 音楽学部, 准教授 (30466974)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | デュティユー / セリアリスム / スケッチ研究 / 創作過程 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代フランスの作曲家、アンリ・デュティユー(1916-2013)の音楽において、システムと自由、あるいは、計算と自発というポスト調性の時代の音楽創造で広く問われた問題が、どのように扱われ、また、どのように解決されているかを、この作曲家の音楽言語の理論研究と自筆譜研究とを循環させることによって、とくに和声の次元において検証することを目的としている。
平成28年度は、前年度に主たる対象とした『メタボール』(1964)、『音色、空間、運動』(1977)、『瞬間の神秘』(1989)に、さらに『第2交響曲』(1959)と『遥かなる世界が』(1970)を加えて、研究を実施した。その結果、デュティユーのシステムと自由の問題は、12音音列をマトリクスとしていかに柔軟に使用するかという問題に帰着することが明らかとなり、また、彼が試みた問題解決の発展変化を時系列的に跡付けることに成功した。このことは、デュティユーもまた、レイボヴィッツによって紹介されたウィーンのドデカフォニスムを出発点としながらも、急速にそれとは違った方向に進んだことを示している。
これにより、「伝統の破壊者(セリアリスト)」対「伝統の擁護者(デュティユー)」というジャーナリスティックな図式の無効性が明確となり、また、デュティユーが、おそらくは本人も意識しないまま、セリアリストたちと同じ問題に取り組み、かなり似通った解決策を取るに至ったことを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた『第2交響曲』に加え『遥かなる世界が』について、スケッチに残されたすべての異稿の確認作業を完了することができた。また、それらがファイナル・ヴァージョンに向かって取捨・選択されていく過程を、それぞれの作品内においてだけでなく、1959年の『第2交響曲』から1989年の『瞬間の神秘』へと至る、大きな流れのなかでも再構築する視点が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
当初は、今回の研究で副次的な対象と位置付けていた『第1交響曲』や『カスーの2つのソネット』、『前奏曲集』、『夢の樹』、『引用』、『コレスポンダンス』についても、最終的には、12音音列をマトリクスとしていかに柔軟に使用するかという、主たる対象で導き出した問題意識に接合できるものと予測していたが、必ずしも純粋に音組織論的な問題だけで、すべての作品が満足に論じられるわけではないことも分かってきた。今後は、それとは別系統にある、デュティユーの音楽の演劇性の起源をさぐりつつ、現在、考察しているシステムと自由の問題が、どこではじまり、どこで終わるのかを見定める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、ほぼ旅費においてである。これは研究計画時においては2016年度開催と見込んでいた参加予定の国際学会のひとつ、「Tracking the creative process of music」の第4回大会が、2017年度の開催となったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
この「Tracking the creative process of music」で、すでに発表することが決まっている。2016年度に未使用となった額は、この旅費にあてる計画である。
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