1.女楽に関する研究発表:昨年度の研究を発展させ、2つの国際学会にて個人研究発表を行った。宮廷儀礼である内宴および菊花宴の持つ政策的な意義と、そこで内教坊が音楽と舞を担当する必然性を関連付けて論ずると同時に、参考となる唐代の図像史料を提示し、さらに日本の内教坊が使用していた打楽器である方響について正倉院所蔵の遺物の情報も加味した。学会の論文集として、中国語に翻訳し今年12月に出版予定。 2.「源氏物語」に見られる音楽演奏と人間関係:「若菜下」に見える所謂六条院の女楽を分析し、六条院世界における女君の立場が、それぞれの担当する楽器や合奏での役割に象徴されていることを指摘。さらに、「源氏物語」中では、音楽をともに演奏することが信頼関係の象徴として描かれているとの中川正美の研究に鑑み、音楽の場に臨席しながら「演奏しない」人物に着目し、彼(女)が置かれている社会的な疎外状況や個人的に疎遠な関係が「演奏しない」という状態にも反映されている可能性を指摘した。2018年度の2つの国際学会で研究発表が確定。 3.鼓吹に関する考察:古代日本における軍楽隊・鼓吹司に関する唯一のまとまった史料でありながら未だ十分に吟味されていない『儀式』巻第九「三月一日鼓吹司に於いて生等を試すの儀」を読解し、鼓吹司の活動の具体的な様態を解明した。 4.ミュージッキング理論の背景とその応用に関する現地調査:昨年度に引き続き、クリストファー・スモールが『ミュージッキング』を執筆し、晩年を過ごしたスペイン国バルセロナ市周辺において7月末~8月に現地調査を実施。ジローナ大学文学部図書館のスモール旧蔵書の閲覧と書き込みの調査、シッチェス市でスモールが行っていた現地イギリス人コミュニティーなどにおける音楽活動に関する聞きとり調査、およびバルセロナ市を中心とする学会での講演活動について、同市在住の民族音楽学者から情報収集を行った。
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