研究課題
2018年度はおもに建築家・境沢孝(1919-2001)の商業インテリアデザインと美術の関係について調査・考察し、成果をロンドンの国際学会Tangible-Intangible Heritage(s)(主催:Architecture_Media_Politics_Society 会場:University of East London, May 2018)で発表した。境沢孝は1950年代以降に数多くの実験的な商業インテリアを手がけた。今回筆者が調査し、成果を発表したのは1970年の東京・八王子のカフェ「ともまつ」である。この調査の第一の目的は、「ともまつ」のインテリアの発想に、現代美術家クリストの梱包芸術の存在がいかに関わっていたのかを明らかにすることだった。什器をすべて白いビニールクロスで覆った「ともまつ」のインテリアは、クリストの梱包芸術に刺激されたものであることを境沢自身は認めている。しかし、その理由について彼ははっきり語ったことはなく、したがって本調査では境沢の他のコメントや当時の商業インテリアの動きから、発想の背景を推察した。想定されるのは日用品を布で梱包してシルエットだけを見せるという梱包芸術の発想が、当時の「アンチ・デザイン」の考え方と合致していたと思われることである。すなわち、境沢は、装飾的なかたちのデザインを拒否し、梱包によりシルエットのみを提示することを選ぶ、という発想をクリストから想起した可能性がある。もう一点推測されるのは、クリストの梱包美術が、境沢や倉俣史朗のような1960-70年代の前衛デザイナーの目には、彼らが実現をめざす非日常の光景に見えたのではないかということである。元来、商業インテリアは非日常な光景には違いないが、彼らが目指したのは、まったく現実を感じさせない、抽象的な世界であり、クリストの芸術はそのヒントをもたらしたと考えられよう。
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AMPS Proceedings Series 15. Tangible-Intangible Heritage(s) -Design, social and cultural critiques on the past, the present and the future
巻: 15.1 ページ: 235, 242